1. 大回転 (2)
兄ちゃんがパチンとテレビを消して立ち上がった。
土間には兄ちゃんと雄二のスキーが立てかけてある。
兄ちゃんのスキーはりっぱなものだ。
ロードレースで優勝した時、来年に備えて兄ちゃんがアルバイトで貯めたお金で買ったスキーだ。
うすい緑色をした板に、たてに三本、こい青色のすじが通っている。
このスキーを買うため、兄ちゃんは五月にはワラビ取りをして旅館の冬支度の手伝いをしたり、父さんの仕事を分けてもらって、雑貨屋さんの配たつなどで貯めたものだ。
兄ちゃんのスキーに比べると、雄二のものは、ひどいそ末なものだ。
とそうも所々はげ落ちているし、エッジもすりへって切れが悪い。
父さんのお古だ。
「今年は間に合わなかったが、兄ちゃんがまたアルバイトして、来年は雄二のスキーを買ってやるからな。」
「兄ちゃん、これで大丈夫だよ。ぼくだってワラビ取りくらいは出来るし、兄ちゃんはもっといい、くつを買った方がいいよ。」
兄ちゃんのスキーぐつはぼろだ。
父さんが昔使た物だから、あみ上げになっているし、他の者がはいているようなはでな色の合成じゅしではない。
「なあに、これで十分だ。競技はスキーの色やくつの型で、きまるもんじゃないさ。」
「そうだね。兄ちゃんは去年、あのぼろスキーとこのくつで勝ったもんな。」
スキーをかついで外へ出る。
前の山の林を切り開いて作った林間コースを、七、八人の子どもが、すべりおりて来る。
「源ちゃんたちが、練習しているよ。あの白いぼうしは、良子ちゃんだ。水色と白のウエアは、順子ちゃんだ。
光子ちゃんや、三郎君もいる。」
「みんな元気にやっているが、今年の女子は、だれが強いかな。」
「良子ちゃんと順子ちゃんだよ。きっと、二人の優勝争いだ。」
「二人とも仲がいいな」
「うん、練習はいつもいっしょだし。」
「男子の方はどうなんだ。」
「五、六人同じようで、だれが勝つかわからない。特に源ちゃんと一郎君は強そうだよ」
「雄二も、負けないようにやるんだな。」
「うん、ぼくだって、負けないよ。」
スキーをかついで、山腹を上って行く。
時々、バサッと木の枝から雪が落ち、小さな雪玉になって、転げていく。
小鳥が、えさを探して、雪の上に小さな足あとを印して歩きまわっていた。
「小鳥も、雪にうまってえさがないんだね。来る時旅館のおじさんから、
野菜くずをもらってきてやればよかった。」
「そうだったな。テレビに夢中になってすっかり忘れていた。
「今度来る時は、前の晩からたのんでおいて、どっさり持ってきてやろうな。」