朝比奈 誼先生のフランス語にまつわる素敵なお話




セ・サンパ
感じいい!親切!ちょっと贅沢!「セ・サンパ」とパリジャンは表現します。そんなサンパなパリを、ほぼ毎週更新でご紹介しています。
 
中国、宇宙開発の急成長 2021.5エッセイ・リストback|next

「長征ー8Y1号」の打ち上げ
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 「チャイナのロケットが落ちてくる」という米国発のニュースが世界を駆けめぐった。不安を煽ったあげく、le Monde紙(5月10日付)にこんな見出しが載った。
 Un segment de la fusée chinoise dont le retour était incontrôlé s’est désintégré au-dessus de l’océan Indien.
 「帰還の際に制御を失った中国ロケットの一部がインド洋上でバラバラになった」
 この結果に終わって一安心だが、米国防省をはじめとしたここ数日の大騒ぎの裏に何があるのか。ここで浮かび出るのが、中国の急速な宇宙開発の与える脅威である。
 問題のロケットLongue Marche-5「長征5号」の1回目の打ち上げ成功は2019年12月27日のこと。le Monde紙(2020年1月20日付)の記事の見出しとリードはこうだ。
 La Chine s’impose comme puissance spatiale「中国、宇宙大国として進出」
 Si les capacités scientifiques et stratégiques du pays dans ce domaine sont encore loin de s’égaler à celles des Américains, il progresse très rapidement
 「中国のこの分野における科学的、戦略的能力は米国のそれに肩を並べるにはまだほど遠いにしても、この国はきわめて急速に進歩している」
 それからわずか1年、今年1月28日付の同紙は同じ基地からのLongue Marche-8Y1「長征8Y1号」打ち上げの写真を掲げた上で、Pierre Barthélémy(科学記者)の論考La discrète mais irrésistible ascension de l’industrie spatiale chinoise「中国宇宙産業の地味だが抗しがたい発展」を載せた。こう書き出されている。
 Depuis le début du mois de décembre 2020, il y a un septième drapeau sur la lune. Mais, contrairement aux six premiers, tous américains, plantés par des humains entre 1969 et 1972 durant l’aventure Apollo, celui-ci est chinois. Il a été déployé de manière automatique lors de la mission robotisée Chang’e-5. Cette bannière rouge frappée des cinq étoiles jaunes et la réussite totale de Chang’e-5, qui a relevé de nombreux défis techniques pour rapporter sur Terre plus de 1,7 kilogramme de sol lunaire, symbolisent la montée en puissance du spatial chinois, pour lequel 2020 a indubitablement constitué une année charnière.
「2020年12月初頭以来、月面には7本目の旗がある。しかし、最初の6本はどれも米国旗で、1962~1972年にアポロ計画の間に人間の手で立てられたのに反して、今度のは中国旗である。これはロボットによる嫦娥計画の一環として自動制御で広げられたのだった。この五星紅旗の掲揚と、幾多の技術的難問を克服して1.7キロ以上の月面土壌サンプルを持ちかえった嫦娥計画の完全な成功とは、中国宇宙開発の能力向上を象徴するものであり、中国の宇宙開発にとって2020年は疑いもなくターニングポイントになったのである」
 これが「地味」な開発なのか?むしろ派手というべきではないのか?
 次の段落に読みすすんだところで、やっと納得がいく。
Sans battre le tambour ni emboucher les trompettes sur le plan international, contrairement à ce que peuvent faire la NASA ou bien SpaceX, Pékin monte patiemment mais puissamment en régime dans le domaine spatial. Depuis des années, la stratégie reste la même : pas à pas, sur un rythme qui n’est dicté par personne, apprendre, surmonter les difficultés technologiques, rattraper son retard sur les autres en cochant une à une toutes les cases. Lancer fusées et satéllites sur un mode routinier ?Fait. Disposer de vaisseaux qualifiés pour le vol habité ? Fait. Maîtriser le voyage spatial au-delà de la banlieue terrestre ? Fait. Se poser sur la Lune et en redécoller ? Fait.
「国際的な形で太鼓を鳴らしたりラッパを吹いたり、NASAやSpaceXならやりかねないが、それをせず、中国政府は宇宙開発で辛抱強く、しかし強力に加速している。数年来、戦略は変わっていない。つまり、一歩一歩、誰の指図も受けないリズムで、学習し、科学技術上の困難を乗り越え、すべての問題項目を一つ一つ消して他国に対する遅れを取り戻すことだ。ロケットや人工衛星を周回軌道に乗せる?成功。有人飛行が可能な宇宙船を操作する?成功。地球圏外の宇宙旅行を制御する?成功。月面に着陸し、離陸する?成功」

習均平主席 ※画像をクリックで拡大
 そもそも中国の技術はソ連ついでロシアのノーハウを学ぶところから始まったのだが、今や学習の段階は終わった。この分野で働く人員は20万、投下予算は年間100億ドルと目され、この記事によればNASAには及ばぬものの、Agence spatiale européenne「欧州宇宙機関」を超える由。(日本の来年度概算要求額は5,400億円)
 ここまで力を入れるのは何故か?思い当たるのはAllocution du Nouvel An 2021 du président chinois Xi Jinping習均平国家主席による「2021年新年の祝辞」の一節である。 主席は恒例にしたがい、2020年の大晦日の晩にテレビ演説をした。人民日報による仏語版、日本語版を引用する。仏語版の拙訳を[ ]カッコの中に添えることにするが、あくまでもフランス語講座の読者向けの蛇足にすぎない。
 彼はLes moments périleux mettent en valeur le courage et l’héroïsme, les meilleurs résultats ne s’obtiennent qu’avec de grands efforts.「困難においてこそ勇敢さが発揮され、錬磨してこそ玉になるのです」[危険な瞬間にこそ、勇敢さとヒロイズムが浮き彫りになるのであり、最良の成果は大いなる努力を重ねてこそはじめて得られるものです]とまるで儒家のような哲理を述べたあと、過去1年の成果を列挙した。むろんコロナ禍の克服がトップに来た。
 Nous avons su gérer les conséquences de la pandémie et obtenu d’importants succès en termes socio-économiques. 「私たちは、コロナ禍の影響を克服し、コロナ対策と経済・社会発展の両立において大きな成果を収めました」[私たちはコロナ禍をうまく収め、社会・経済学的にいえば顕著な成功を博することができました]
 つぎに年次計画の目標達成に触れ、まず科学技術躍進を強調したことが興味をひく。
 D’importantes percées ont eu lieu dans le cadre des programmes de recherche dont Tianwen 1, Chang’E 5 et Fendouzhe.「<天問1号>*、<嫦娥5号>、<奮闘者>**号などによる科学探測が大きなブレークスルー***を実現しました」[科学探査計画の枠内で目覚ましい進展がありました、特に<天問1号>、<嫦娥5号>、<奮闘者>であります]
 *火星探査機。昨年7月に打ち上げられ、今年2月に火星周回軌道への投入に成功した。
**深海探査船。8回にわたって潜水、1万メートル以上の深海を探査した。
***蓬勃展開(カイは簡字体)の訳語と思われる
 それにしても、このtechno-nationalisme「技術愛国主義」(1月13日le Monde)の目標は何か?そもそも、この「専制者」を衝き動かし、それを支持する人たちの願いは何か?次回のテーマにしよう。


 
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