朝比奈 誼先生のフランス語にまつわる素敵なお話




セ・サンパ
感じいい!親切!ちょっと贅沢!「セ・サンパ」とパリジャンは表現します。そんなサンパなパリを、ほぼ毎週更新でご紹介しています。
 
ロシアのブラック・ユーモア 2022.6エッセイ・リストback|next

プーチン・マクロン会談
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 Guerre en Ukraine「ウクライナ戦争」がはじまって100日を超えたが、その間、Poutine大統領の名を聞かない日はなかった。日本では彼が近く権力の座から追われるとか、ロシアという国家そのものが来年には消滅するとか、希望的観測をまじえた情報が流れているようだ。それに比べると、フランスのマスメディアは冷静で、もっと大局的な見方に立とうと努めているように思える。
 6月12日付のLe Figaro紙はアメリカの政治学者Francis Fukuyama(ひと頃はネオコン思想家として鳴らした)との対談 « Je ne pense pas qu’il faille enterrer la Russie. L’Occident ne doit pas se montrer présomptueux »「ロシアを葬り去るべきだとは思わない。西欧は思いあがった態度を見せてはならない」を載せて、プーチンを除け者にして追いこめば、核兵器が使われ、人類全体が絶滅の危機に瀕する、といういかにも妥協的な立場を露わにした。
 尤も、そのフクヤマにしても、民主国家と独裁国家の対立という構図が思考の前提なのだ。その上で、一方の民主国家の指導者たちがthe checks and balances「抑制と均衡」の制約を受けて苦闘しているのに比べて、他方の独裁者プーチンがやりたい放題なことには批判的である。
 Poutine, lui, règne en seul maître, sans limites, qui plus est coupé de l’information et des conseils d’experts. Il vit dans un monde bâti sur ses propres illsusions. L’Ukraine est exemple --- tout ce qu’il s’est imaginé à son sujet est faux, mais il s’est entêté dans son délire parce qu’il s’est construit un système dans lequel il est seul aux commndes.
 「プーチンの方は唯一の支配者として君臨し、無制限で、おまけに情報や専門家の助言から遮断されている。彼は己の幻想の上に築かれた世界に生きている。ウクライナが好例だ---この国に関して彼が考えたことはすべて嘘だ。それなのに彼が自分の妄想のなかに頑なに居座っているのは、彼が自分の頭の中に、自分だけが操作できるシステムを作りあげたからなのだ」
 4月2日のLe Monde紙はEn Russie, le retour de l’humour noir soviétique「ロシアで、ソ連のブラック・ユーモアの復活」という記事を載せた。
 Les blagues populaires à l’époques de l’URSS circulent à nouveau, comme une antidote à la propagande.「ソ連時代にはやったジョークが、プロパガンダに対する一種の解毒剤として、今あらためて流通している」
 以下、その中からいくつかを紹介する。
 « Moscou a proposé à Kiev d’organiser une rencontre entre Poutine et Zelensky. Selon des sources non officielles, les travaux pour la construction de la table ont déjà commencé .» La plaisanterie, russe à l’origine, convoque l’image --- en pire, sans aucun doute --- de l’entrevue entre Vladimir Poutine et Emmanuel Macron séparés par une table de six mètres de long, lors de la visite du chef de l’Etat français à Moscou, le 7 février.
 「<ロシア政府はウクライナ政府にプーチン=ゼランスキー会談を提案した。非公式な情報筋によると、テーブルの建設工事がすでに開始された由> ロシア起源のこのジョークが呼び覚ますのは--- 間違いなく更に悪質*だが--- 2月7日、フランス大統領がモスクワを訪問した際、長さ6メートルのテーブルを隔てて行われたウラジーミル・プーチン=エマニュエル・マクロン会見のイメージである」
*「建設工事」という表現から推して、テーブルの長さは大きく延長されるに違いない。
 La décision prise récemment par le législateur russe d’interdire le mot « guerre » est ainsi tournée en dérision : « Afin de se mettre en conformité avec les exigences de Roskommador[le gendarme russe des communications], le livre de Léon Tolstoï Guerre et Paix a été renommé Opération spéciale et haute trahison. »
 「ロシア立法府が最近<戦争>という語の使用を禁じたため、こんなジョークが生まれた。<ロシア情報通信警察の要求に対応するため、レオン・トルストイの著書『戦争と平和』は「特殊軍事作戦」と「国家反逆罪」に改称された>」
 この記事の筆者Isabelle Mandraudによれば、StalineからBrejnevまで、共産党独裁時代にさかんに出回っていたジョークがinterdit「禁止[令]」が矢継ぎ早に出される今、それに挑戦するかのように大量に復活してきたらしい。
 Or, non seulement les plaisanteries satiriques refont surface, mais elles ont un lien direct avec celles d’hier, si l’on juge par l’abondance de celles tout simplement « recyclée ». Comme un fil d’Ariane entre deux époques, qui se regarderaient en miroir.
 「ところで、風刺的なジョークはカンバックしたばかりでなく、<リサイクル>作の多さからみて、往年のジョークと直結している。昔と今をつなぐアリアドネーの導きの糸のようなもので、両者は鏡の面で向き合っているのだ」
 6月12日はJour de la Russie「新生ロシアの日」だというが、実はまやかしで、今やプーチンの手で、旧ソビエト連邦が完全に復活したものと認めなくてはならぬようだ。
 最後に、ウクライナのジョークを紹介しよう。ここもソ連邦の一部だったことを忘れまい。

Le communism est-il soluble dans l'alcool?
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 Héritière du passé soviétique, l’Ukraine y[=à ce retour de flamme] participe aussi, à sa manière, plus libre, mais non moins féroce. Rapportée d’Izmail, dans la région d’Odessa, cette histoire conte une conversation entre Dieu et Jésus, bien décidés à prendre des vacances. Jésus choisit en premier d’aller en Israël. Dieu prend le temps de la réflexion avant de lâcher : « Je vais aller en Russie. » Devant le silence interloqué, il explique ne « jamais avoir été là-bas ». Une terre oubliée de Dieu. Le poutinisme deviendrait-il lui aussi soluble dans l’alcool ?
 「ウクライナはソ連の一員だったという過去を受け継いでいるから、このジョーク復活の熱気に、この国なりに参加した。もっと自由に、しかし酷薄さでは負けずに。オデーサ地方のイズマイルから伝えられた話だが、ヴァカンスをとることに決めた神とイエスの会話である。イエスは先立ってイスラエルに行くことを選んだ。神はよく考えた末に言い放った、<わたしはロシアに行くことにする>。相手がぎょっとして絶句したのを見て、<あそこには一度も行ったことがないから>と説明した。神にも忘れられた土地、というわけ。プーチン主義もまた酒で紛らせねばならない*のだろうか?」
 *筆者は1979年、Brejnev独裁体制の末期に出て反響を呼んだAntoine & Philippe Meyer著のロシア・ジョーク集Le communisme est-il soluble dans l’alcool ?『共産主義は酒で紛らせられるか?』を想起している。この本のあと数年してソ連が崩壊したことから考えて、絶頂期を迎えたプーチン主義の支配もまた終わりが近いことを暗示したものだろう。

 
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