朝比奈 誼先生のフランス語にまつわる素敵なお話




セ・サンパ
感じいい!親切!ちょっと贅沢!「セ・サンパ」とパリジャンは表現します。そんなサンパなパリを、ほぼ毎週更新でご紹介しています。
同性婚 2016.12エッセイ・リストbacknext

フランソワ・フィヨン大統領選候補予定者 ※画像をクリックで拡大
 トランプ旋風がヨーロッパにも波及しそうだ。こうした緊迫の時期に、フランスもまた来春に5年に一度の大統領選挙 la présidentielleを迎える。追風をうけた極右政党Front national「国民戦線」のMarine Le Pen候補優勢の声が高まるなか、危機感を持ったle centre「中道」とla doite「右翼」はla primaire「予備選挙」を挙行、les Républicains「共和党」から統一候補としてFrançois Fillon氏を選出した。François Hollande大統領(Parti socialiste「社会党」)はそれを待っていたかのように次期選挙への立候補を断念した。la gauche「左翼」からは代わりにManuel Valls氏(大統領の了解をうけ、首相職を辞任した)が立候補したが、どうやら政権交代は避けられぬ情勢で、フィヨン候補の名が出たあとの世論調査では、大統領選の決選投票 le second tourに残るのはル・ペン、フィヨンの両者で、そのあと後者が勝利するという見通しになっている。
 ところで、フィヨン氏はどんな政策を掲げているのか。彼はSarkozy大統領時代に3年間も首相を務めたベテラン政治家だ。因みに、この前大統領も予備選に出馬したのだが、予想に反して、第1次投票で以前は配下だったフィヨン氏に大敗したのだった。  勝利宣言で、フィヨン氏は述べた。
 J’ai maintenant le devoir de convaincre tout un pays que notre projet est le seul qui puisse nous hisser vers le haut, pour l’emploi, pour la croissance, pour battre ces fanatiques qui nous ont déclaré la guerre.
 「私は今やつぎのことについて全国民を説得する義務があります。雇用において、経済成長において、われわれに宣戦布告をした狂信者たちへの戦いにおいて、われわれを高みに押し上げられるのはわが党の計画だけなのです。」
 失業、不況、テロ、当面する課題をここにしぼったということだ。その上で続ける。
 J’ai le devoir de vaincre l’immobilisme et la démagogie. La gauche, c’est l’échec ; l’extrême droite, c’est la faillite. Je parle de vaincre ces partis politiques, pas de vaincre ces Français déçus, ces électeurs qui ne sont pas aujourd’hui des nôtres, mais qu’il me revient aussi d’entraîner vers l’avenir.
 「私の義務は、現状維持の事なかれ主義や民衆扇動に打ち勝つことです。左翼は失敗です。極右は破産です。私の敵はこれらの政党であって、失望したフランス国民ではありません。選挙民のみなさんは、現在はわが党の味方ではないけれど、私の責任において未来に向かって引っ張っていかねばならぬのです。」

クリスチアーヌ・トビラ元法務大臣 ※画像をクリックで拡大
 予備選挙の場では、党員の票を獲得したい一心なのだろうが、supprimer les 35 heures「(週間労働)35時間制の廃止」やl’âge légal de la retraite à 65 ans「法的退職年齢の65歳への延長」を主張して、左翼政権の成果に破産宣告をくだした。他方、EUについての言及はないし、難民を排斥することもない。極右ル・ペンとの対立軸を明示したいのだ。
 気になるのは、日本と同じいわゆる「右傾化」の懸念だ。これに関連して、Florence Haegel女史(Sciences Po「パリ政経学院」教授)の指摘(11月30日付「ル・モンド」紙)に注目しよう。彼女は、オランド大統領時代にles réformes sociétales「社会制度の改革」が進んだと見る一方で、フィヨン候補がそれにストップをかけようとしてl’inflexion vers le conservatisme moral「道徳的保守主義への傾斜」を強めているという。
 La contre-mobilisation de la Manif pour tous apparaît comme un symptôme du rassamblement d’une partie de la droite, adossée aux réseaux catholiques, pour la défense d’un ordre familial et moral.
 「<同性婚への反対デモ>が一部右翼の結集の一前兆として登場した。彼らは家族制度に基づく道徳秩序を守るために、カトリック信徒のネットワークに負ぶさったのだ。」
 これについては、ちょっと立ち入った説明が必要だろう。
 発端はla loi du Mariage pour tous「同性婚解禁法」である。ここでのtousはLGBT、すなわちlesbien「女性同性愛者」、gay「男性同性愛者」、bisexual「両性愛者」、transgender「性同一性障害を含む性別越境者」を意味する。オランド大統領がまだ社会党らしさを発揮していた時代、Garde des Sceaux「国璽尚書」ministre de la Justice「法務大臣」をつとめたChristiane Taubira(海外県Guyane出身の女性政治家)が中心になって議会に提出した法案で、議論を重ねた末、上下院で可決、2013年5月に発効した。これをもってフランスは同性婚を認める、ヨーロッパで9番目の国になった。
 その点ではけっして早まった法律とは思えないのだが、議会の内外を通じて反対の声は高く、根強かった。成立直後、la Manif pour tous「同性婚への反対デモ」という呼びかけがフランス全国に波及し、街頭デモの参加者は100万人(政府発表では15万人)に達した。この運動はla Manif pour tousを名乗る組織となり、現在にいたっている。大統領候補にとって、この組織票は大きな魅力だろう。
 下院議員として最後まで反対しつづけていたフィヨン氏は、予備選の決選投票の際、こう主張した。
 [Il] n’entend pas remettre en cause le principe du mariage des couples de même sexe, il veut réécrire le texte. Il souhate que « les règles concernant la filiation doivent être réexaminées, car il y va de l’enfant et cela prévaut pour moi sur toute autre considération ».
 「同性カップル結婚の原則を再検討するつもりはありませんが、法文を書き直したいとは思っています。自分が希望するのは、「《親子関係に関する条項は再検討されるべきだということです、というのも、そこには子供が関わっているからですし、私にとってはそれが他のいかなる配慮よりも優先されるからです》。」
 彼はLa famille est le fondement de notre société.「家族こそはわが社会の基礎だ」として、それをles valeurs françaises「フランス的な価値」の要とすることを強調する。飛躍するようだが、自民党改正憲法草案第24条「家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される。家族は、互いに助けあわなければならない。」がふと連想される。妙に暗い気分に陥る。現在の「家族」にこれほどの重荷を負わせてよいものなのか。


 
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