それは10月も押し迫った日曜日のことだった。夏時間から冬時間に移行した週末ということで、一度目が覚めたものの、またしばらくベッドでごろごろし、それからゆっくり起き出した。それでもまだ8時半。なんだか得した気分。
階下の台所に下り(我が家はデュープレックスと呼ばれるメゾネット形式のアパルトマンである)、朝食用の大きなカップに並々と紅茶を注いだ。
「そうだ、今日は久しぶりにクロワッサンといくか」。
いつもはバゲット(細長い棒状の、いわゆるフランスパン)を13センチと決めている。なんで13センチかというと、それは行きつけのパン屋のムッシュー・ビナールがバゲットを65センチに焼き上げるから。5分の1に切るか、4分の1にするか、ここに住み始めた当初相当悩んだ(?)が、やっぱり、ダイエットということで5分の1に落ち着いた。
ちなみに、こちらで「サンドイッチ(サンドウィッシュという発音)」というと、バゲットを半分に切り、さらに横から包丁目を入れ、サラミやハムやチーズ、豪華にする時は野菜も一緒にはさんだもののことである。これで一人前。昼時になると、パン屋の店先にこれらのサンドイッチが山積みにされているが、日本人の「おにぎり」感覚だろうか・・・。
私のダイエットとしては、「クロワッサンも週1を越えないように」と、涙ぐましい努力。なにしろバターの量が半端でない。
夫が日本に出張中ということもあり、一人で、窓の方を向いた椅子に座り、りんごをむき始めた時だった。突然、彼女が戻ってきたのだ。
「おどき!そこは私の家よ」と言わんばかりの剣幕で、相手を追い出したのだから、ガサガサ、バタバタ、と窓の外の2つのシルエットが私の視野に飛び込んできた。
彼女は中肉中背でなかなかの美人だ。全体にほどよい濃さのグレーの羽毛、うなじのあたりはやや緑がかっている。そして、首の両サイドに白い三角模様。正面を向くとそれがわずかに白いアクセントとなって首をほっそり見せている。尾の先は黒っぽいグレー。このグラデーションもなかなか上品である。
「どこ行ってたのよ?心配したじゃない・・・」私は思わず窓辺に走り寄った。
なんで彼女(もちろん、鳩です)のことが気になるのかというと、それには少しわけがある。
パリの長いバカンスが終わった9月の始め、少し黄ばんできたマロニエの葉がそれでもまだたくさん生い茂っていた頃、私は台所の窓の外のマロニエの幹のくぼみで1羽の鳩がちょこちょこ動いているに気がついた。目をこらして重なる葉っぱの間を見ると、細い小枝を集めて、せっせと巣作りをしているではないか。オレンジ色の小さなくちばしが、器用に丸いかごを編んでいる。
そして、次の日からそのかごに座り込むと彼女はどこにも行かなくなった。次の日もまた次の日も、雨が降ろうと、風が吹こうと、彼女は座り続けた。彼女の観察が私の日課になった。夫は一眼レフにその姿をおさめた。
時折、ちょっと大きめの鳩がやってきて、狭い巣の横に並んで、何やら2人(2羽!?)でこそこそ内緒話のようなしぐさをすることもあったが、おおむね、彼女は一人であった。
「すぐ行っちゃうのよね。たまには代わってあげればいいのに。」と私は夫に文句を言った。
(次号に続く)
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