数年前のこと、ひと夏をイギリスの田舎で過ごし、ロンドンからユーロスターで戻る息子を夫と共に北駅に迎えたことがあった。大学生にもなった子どもをわざわざ迎えに行ってあげるなんて、甘やかしすぎか…と思わないでもなかったが、実は、息子をピックアップして、その足で夕食に出かける、ということが一番の目的だったのだ。
でも、ユーロスターがゆっくりと音もなくプラットホームに入るのを(この時も確か15分は遅れた)見た時、なんだかちょっとドキドキした。ホームの手前の境界線のような手すりから、お行儀良く、一歩も前に出たりしない多くの出迎えの人たちに混じって、私たちも息子を待った。
後ろのほうで、どよめきと笑い声があがった。5−6人の若者が、歓声を上げながら、一人の青年を出迎えている。まるで宇宙飛行士が地球に戻った時みたいに。
手すりのところで、身を乗り出していた少女が「ママン」と叫んだ。その次の瞬間、横にいた老婦人に抱かれた幼子が、小さなもみじのような手をちぎれんばかりにパタパタ振った。
それからまたしばらくして、大きなスーツケースを引きずり、背中に黒いギターケースを担いだ息子が急がずにのんびりと、イギリスでできたフランス人の友だちと談笑しながら歩いてきた。つい2ヶ月ほど前に見た顔なのに、なんだか何年ぶりかで会ったような気がした。「終着駅の妖精」が魔法をかけたような夜だった。 |