てっとり早い例がPas de Calaisである。これを仏和辞典でひくと、「ドーバー海峡」とあるばかり。因みに、この場合のpasはIl habite à deux pas.「彼はほんの近所に住んでいる」
という時のpasとはちがって、passage「通り道」の意味である。 それを確認した上でいうのだが、カレー海岸に住む人間の身になって考えれば、自分たちの海の沖をPas de~ と呼ぶのは当然だろう。ところが、日本の辞書に「カレー海峡」という訳語が出てくる気配はまったくない。ただ目を転じて、海の向こう側のイギリス人からすれば、Dover港の沖にあるStraitである以上、そう命名するほかはない。両者あいゆずらずといいたいところだが、なにぶん日本は英語優先、英国びいきの国だから、「ドーバー海峡」のほうが採用されて、それが定着したということだろう。同様にして、イギリス南岸とフランス北岸のあいだにある海峡を、フランス語ではla Manche(スペイン語la Mancha、イタリア語la Manica)というが、日本では英語のthe English Channelにならって「イギリス海峡」であり,それ以外ではない。フランスびいきのわたしからすれば、せめて英仏海峡と呼びたいところだが。