朝比奈 誼先生のフランス語にまつわる素敵なお話




セ・サンパ
感じいい!親切!ちょっと贅沢!「セ・サンパ」とパリジャンは表現します。そんなサンパなパリを、ほぼ毎週更新でご紹介しています。
コンパニオンの話
2006.12エッセイ・リストbacknext
 前回の記事のなかでふれた大統領選挙の話題は、年末から来春にかけてフランス人の関心を日増しにひきつけていくにちがいない。わたしが先走って注目したRoyal女史が社会党の女性候補candidateに正式にきまったことは、あくまで文法的な関心にすぎなかったにもせよ、未来を予見していたかのようで、悪い気はしない。そんなわけで、今回もまた大統領選挙が話のマクラになる。

ドラクロワの「民衆を導く自由の 女神」
  マスコミが彼女をしきりに取上げるのは当然であろうが、Le Monde紙(12月5日付け)の « Candidates libres »「自由な女性候補たち」という記事にはいささかびっくりした。女性候補者が複数いるということにも目をみはったが、それ以上にlibre、freeという形容詞の意味に驚いた。そもそもLaurent Greilsamerのchronique(英語のcolumn)「コラム、消息欄」のことだから、いつものようになにか企みを秘めた文章であることは読む前から予想されたのだが、それにしても、してやられた。
 コラムは「大統領選挙の女性候補者たちは大多数がune situation familiale éminemment moderne超近代的な家庭状況にいることで際立っている」という書き出しではじまり、彼女たちは「結婚はune vieille chose, une institution obsolète旧式な事、旧弊な制度」だとして見限っているとつづく。そして、いきなりとびだしてくるのが、つぎの文だ。
Ségolène Royal ?Compagne naturellement. Compagne de François Hollande, son compagnon.
さて、このcompagneはいかなる意味か?答えのヒントとして、すぐ後にひかえたWho’s who in France「フランス紳士録」の記述(本人の文章らしい)を引用しよう。
 « Mère de quatre enfants de son union avec François Hollande, Magistrat à la Cour des comptes, Homme politique. »
 「会計検査院検査官、政治家フランソワ・オランドとの間に生まれた四子の母」
 ここでもunionという語が使われていることに留意しよう。結婚のことをunion légaleというが、ここではunion libre、すなわち「同棲、内縁関係」の意味であるにちがいない。
 するとcompagneはどうなるか?Petit Larousse辞典が現代用語としての語義をはっきり説明している。
 まずcompagneをcompagnonという項に送った上、compagnonnage「同職組合」のメンバー(職人)としての compagnonは1として独立させ、別に2 compagnon, compagneという項をおこして、つぎのように説明している。
 Personne qui accompagne qqn, vit en sa compagnie
 「誰かある人と連れ添っている人、その人と一緒に暮らしている人」
 要するに「連れ合い」ということだが、これをいうのに、ひところpartenaireという語がしきりに用いられたように記憶する。ところが、同じPetit Larousse辞典のこれに関する説明はいかにも即物的だ。
 Personne avec qui l’on a une relation sexuelle
 「性関係のある相手」
 さらにもっと昔はconcubinage「内縁関係」という言いかたが幅をきかせた。それにともなってconcubin「内縁の夫」 concubine「内縁の妻」という語が用いられたのだった。これらの語の背景には男女の差別を前提とした社会状況が存在した。そこから生じる後ろ暗さがコトバにもつきまとっていることを否定できない。ところが、周知のように、女性のめざましい社会進出が、男女差をみるみる縮小し、男女平等を現実的なものに近づけつづけた。その結果、人々はもっと無色透明な語を要求し、それがunion, compagnon, compagneに行き着いた、ということなのだろう。このことと、大統領選挙に女性候補者が複数立つ、という事実とはぴったり重なっている。
 そこで、上記の文章の訳はこうなる。
 「セゴレーヌ・ロワヤルはどうか?むろん連れ合い(妻ではなく)、彼女の連れ合いのフランソワ・オランドの連れ合いなのさ」
 話が横道にそれるが、太平洋戦争後の日本が輸入した多くのカタカナ英語の一つに「コンパニオン」がある。もともとは万博の時の案内役として採用された若くて英語の達者なお嬢さんたちのことだったと思うのだが、いつの間にか語義が拡大して、今では、司会コンパニオンやら、宴会コンパニオンやらが存在するというから呆れる。もっとも、大元の英語にはa paid companionという職があり、「病人や老婦人の話し相手として雇われる女性」だと辞書にあるから、語義が大きく逸れたというわけではないのかもしれない。
 問題の記事に話を戻す。このあと、前回に名をあげたSarkozy氏の所属するUMP(国民運動連合)にはMichèle Alliot-Marie女史、緑の党にはArlette Laguiller女史が候補者として存在することが指摘され、やはりWho’s who in Franceをもとにいずれもcompagnonをもつ女性たちであることが明るみに出される。

エリゼ宮殿(大統領府)
  それと対照的なのが男性候補者の場合だと、コラムニストはつづける。主だった顔ぶれとしてJean-Marie Le Pen、Philippe de Villiers, Nicolas Sarkozy, François Bayrouという錚々たる政治家の名がつぎつぎ出てくるが、おしなべて妻子があり、おまけにそれを選挙民に見せつけるのが好きな連中ばかりだというのである。
 Décidément, l’échéance politique de 2007 démarre curieusement. Les candidates refusent majoritairement de se laisser passer la bague au doigt et les maris se retrouvent tous à droite.
「どう考えても、2007年政治決戦のスタートは珍妙だ。女性候補者たちは大多数が指に結婚指輪をはめるのは真っ平だという。ところが、男性候補者たちは全員右寄りで一致しているのだから。」
  さてコラムに出てきたlibreだが、読者の皆さんはどういう意味にとりますか 。
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