朝比奈 誼先生のフランス語にまつわる素敵なお話




セ・サンパ
感じいい!親切!ちょっと贅沢!「セ・サンパ」とパリジャンは表現します。そんなサンパなパリを、ほぼ毎週更新でご紹介しています。
インターネットとフランス人 2009.11エッセイ・リストbacknext

パリのネットカフェ

 internauteという単語がある。最近は当たり前につかわれるようになったが、もともとは「宇宙飛行士」にあたる仏語cosmonaute(ロシア語起源)、astronaute(米語起源)に似せて作られた造語で、英語のnetsurfer、つまり「インターネット利用者」を意味する。別にnetizen(←network+citizen)という米語をカタカナ表記した「ネチズン」があり、現にロワイヤル仏和中辞典第2版は訳語に加えている。ただし、Wikipediaによると、そもそも「インターネットなどのコンピューターネットワーク上の社会に属しているという意識の強い人々の呼称」だったが、「現在は大韓民国のみで用いられている」由。どうやら韓国ではこの意識がことさら強いらしく、それが高じてネット上の中傷に堪えかねた女優が自殺する事件まで起こしてしまった。その結果、「ネチズン」は印象を損ね、日本では死語になった、というのがネット百科の結論である。英語をカタカナにして使うなら、むしろ「ネットサーファー」の方が偏りのない言葉として通用するのかもしれない。
 まえおきはこれくらいにする。ル・モンド紙(10月15日付)はOlivier Donnat氏が「インターネットとフランス人の教養les pratiques culturelles des Français」の関係について過去10年ごとに実施してきたアンケート3回目の結果を紹介した。以下、その記事から面白そうな話題を拾いあげることにしょう。


L'ordinateur dope la culture 「コンピューターは教養(文化)を活性化する」

▶1週間あたりのコンピューター使用時間(横軸)
0時間/3時間未満/3~7時間/7~14時間/14~21時間/21時間以上

▶年間の教養行動/各グループ100人中の人数(縦軸)
映画/美術館/演劇/25冊以上の読書


(10月15日付「ル・モンド」紙より転載)

 はじめはコンピューターordinateur普及の現状だが、ピッチがいかにも急である。
 En 1997, à peine un ménage sur cinq disposait d'un ordinateur, et la proportion d'internautes dans la population française était inférieure à 1%.
 「1997年には、パソコンを所有している家庭は5軒中1軒あるかないかの程度だったし、総人口に占めるフランス人internautesの割合は1パーセントに満たなかった」
 ところが、今日では83%の人々が自宅にパソコンを持っている。そして
Hors scolarité et travail, deux internautes sur trois se connectent pendant douze heures en moyenne par semaine.
 「利用者3人中2人は、仕事や勉学とは別に、毎週平均12時間ネットで交信している」

 つぎは、パソコン利用のこうした伸びが必ずしも自宅への引きこもりを助長してはいないという結果である。過去数十年というものは、テレビが指標になって、社会階層別に教養の高め方を仕分けることができた。
Les analystes opposaient une culture domestique --- les classes modestes qui regardent massivement la télévision à la maison --- à une culture de sortie --- les classes moyennes et supérieures qui vont au concert ou au théâtre. Plus on regarde la télévision, moins on sort. Et moins on se « cultive ».
「(アンケートの)アナリストたちは、引きこもり型教養(自宅でテレビを長時間見る低所得階層)と外出型教養(コンサートや観劇に出かける中・上流階層)とを分けていた。テレビをよく見れば見るほど、外出の機会が減る。その分、自分の教養を養う度合いも減る」
パソコンを使えば自宅に引きこもりがちになりそうなものだが、実は違っていた。Donnat氏はこう説明する。
Les internautes qui vont tous les jours sur la Toile sont ceux qui vont le plus au théâtre, au cinéma, lisent plusieurs livres. Et même si, globalement, les jeunes générations, souvent « numérisées », vont moins au théâtre ou au musée, les baby-boomers compensent.

「毎日ウエッブ上を動き回るサーファーたちは、劇場や映画館に行くことが一番多く、 読書量も多い。そして全体として若年層はデジタル人間が多く、劇場あるいは美術館に出かけるものは減っているが、ベビーブーム世代(団塊の世代)がその埋め合わせをしている」
 それでは、パソコンは教養を培うのに役立っているのだろうか。この点、アンケートの結果は単純ではない。若者は平均して1日2時間はインターネット上で過ごすという結果が出ている。それが4時間までなら、外出の回数は今まで通りだけれど、5時間以上もパソコンにかじりついている場合は、映画館にも図書館にも劇場にも行く回数が減る。
加えて、どうやら教養を養うには年齢以上にl'effet générationnel「ジェネレーション効果」が作用するようだ。一体、何のことか?
 Autrement dit, ce que l'on fait à 20 ans, on le fait toujours à 40 et ce que l'on ne fait pas à 20 ans, on ne le fait pas non plus à 40.
 「言いかえれば、20歳のころにすることは、40歳になってもやはりやる。そして20歳でやらないことは、40歳になってもやらないのである」

 その実例として、Donnat氏はクラシック音楽を若者が見捨てたこと、ロックはファンを失っていないが、客層がどんどん高齢で裕福な階層に移行していること、アメリカ映画支持の若者とフランス映画に執着するシニアとの対立が深まっていることをあげている。さらにつけ加えれば、前世代よりplus diplômés, plus urbains et plus riches「学歴も高く、都市慣れし、裕福な」世代がun parc audiovisuel domestique beaucoup plus riche「より充実した自家用オーディオ環境」を備えているのに、des pratiques de loisirs moins centrées sur le domicile「レジャータイムを家よりも外で過ごす」暮しを送ろうとしていて、55−64歳の年齢層の64%、65歳以上の36%が毎月少なくとも1度は夜間に外出している。1997年のそれぞれ53%、26%という数値に比べ変化が著しい。

 この傾向の裏には深刻な問題が潜んでいるようだ。というのも、このアンケートは文化施設les équipements culturelsを低所得者層にも近寄りやすくするよう政府に勧める意図で始められたはずだが、élargir les publics「利用対象の拡大」も、corriger les inégalités  「不平等の是正」も、répondre aux évolutions technologiques「技術の進歩への即応」も出来ず、皮肉なことに文化政策の失敗を証明する形になったからである。
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