朝比奈 誼先生のフランス語にまつわる素敵なお話




セ・サンパ
感じいい!親切!ちょっと贅沢!「セ・サンパ」とパリジャンは表現します。そんなサンパなパリを、ほぼ毎週更新でご紹介しています。
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ワシントン・アーヴィング

 しじゅう情報源にしているLe Monde紙だが、ご多分にもれず、経営状態が悪く、編集のトップが交代しそうな気配だ。これを機に編集方針まで変わるとは思えないが、不安がつきまとう。わたしがこの新聞を好んできたのは、なにかにつけ世界をリードするアメリカに組せず、適度のスタンスを保つ、その姿勢に共鳴するからだ。前年末のクリスマス報道にもその傾向が読めた。年があらたまった今、le Père Noël「サンタ・クロース」を話題にするのは証文の出し遅れの感じだが、あえて取りあげることにする。
 まずはCorines LesnesのLettre des Etats-Unis「アメリカ便り」(12月16日付)で、題してLe Père Noël est américain.「サンタクロースはアメリカ人だ」と訳したくなるところだが、ここは「アメリカ製、アメリカ生まれ」とすべきだろう。というのも、周知のとおり、サンタの由来にはSaint Nicolas聖ニコラオ(4世紀、トルコ、アナトリアの司教)にまでさかのぼるとするものを含めて諸説があるからだ。だが、この記事は、わたしたちに馴染みのサンタはなんとアメリカ人のWashington Irving(1773-1859、Rip Van Winkle「リップ・ヴァン・ウインクル」などで知られる作家)の発明だとする。
 Le Père Noël est américain. On le sait depuis que Washington Irving a créé le personnage, en 1809, et que Coca-Cola lui a donné sa houppelande rouge et son air débonnaire, plus d'un siècle plus tard.
  「サンタクロースはアメリカ産だ。1809年にワシントン・アーヴィングがこの人物像を創出し、また1世紀以上後にコカコラが彼に赤い外套と優しい風貌を与えて以来、それは誰もが知るところとなった」
  1809年というのは、同年に出た著作A History of New York …by Dietrick Knickerbocker 『ニューヨーク史』の中でのことだろう。またコカコラがサンタを広告に採用したのは1931年。これにも異論があるようだが、とりあえず記事にしたがっておく。
 Chaque 24 décembre, la tradition veut que les familles se réunissent autour du sapin pour lire le poème Twas the Night Before Christmas, écrit par Clement Clarke Moor en 1823. C'est lui qui a inventé le traîneau volant.(下線の指示は朝比奈)
 「毎年12月24日には、慣習にしたがって、どの家族も樅のツリーのまわりに集まって、クレメント・クラーク・ムーア作の詩“サンタクロースがやってきた“を読むことになっている。空を飛ぶ橇を発明したのは彼なのである」
 この詩についてはグーグルに詳しいから説明を省くが、作者ムーアはコロンビア大学教授で、歴としたアメリカ人だ。余談だが、la tradition veut que …という構文について一言。「人」ではなく、このように「物、とくに抽象名詞」がvouloir(あるいは<要求>を意味する同系統の動詞)の主語になっている場合、むろん従属節の動詞は接続法(この場合はse réunissent)に置かれるが、訳し方にすこし工夫がいる。 類例を同じ「アメリカ便り」から引いておく。
 …la fonction exige que le président serre quelque 50 000 mains en un mois.(同前)
 ホワイト・ハウスはクリスマス月間に連日多数の客を招く仕来りになっている。文中のfonctionとは主人役である大統領の職務を示している。serreはむろん接続法である。
 「役目柄、大統領は1カ月で約5万人と握手しなければならない」
 さて「アメリカ便り」の主張は、クリスマスを金儲けのチャンスに変えたのはアメリカだということになる。そのアメリカ流に乗って今サンタで金儲けに夢中なのは、皮肉にも中国だ。Les comptes fantastiques du Père Noël「サンタの法外な会計報告」と題する記事(12月20日付)はクリスマス商戦たけなわのパリのデパート風景を描写している。
 Trois heures de courses de Noël dans les grands magasins parisiens permettent de comprendre, bien mieux qu'une année de cours en fac d'éco, quelques-uns des grands problèmes actuels de l'économie mondiale.

クリスマスシーズンに外観をデコレーションした
パリの老舗デパート「ギャラリーラファイエット」

 A commencer par le déséquilibre des comptes extérieurs. La guirlande électrique pour décorer le sapin? Made in China. La veste en laine polaire du neveu? Made in China. Les baskets pour la nièce? Made in China. L'iPhone? Made in China. Même la canne à pêche, pourtant de marque américaine, auto-offerte, made in China.
 「パリのデパートでものの3時間もクリスマス・プレゼントの買物をすれば、経済学部の講義1年分以上にしっかりと、世界経済が当面する大問題のいくつかが理解できる。
 第一が、対外貿易の不均衡だ。樅のツリーを飾るイリュミネーションを買おうとすると、中国製。甥のためにフリースのジャケットを?中国製。姪のためにバスケット・シューズを?中国製。アイフォーンを?中国製。釣り竿でさえ、アメリカの自動スピニング付きブランド品なのに、中国製だ。」
 これが積み重なれば、ヨーロッパの対中国貿易赤字は2000億ユーロに達する。目まいを催す話だが、問題は中国の儲けがどこに行くか、というところにある。
 Ils (les euros) y (en Chine) serviront à acheter des obligations assimilables du Trésor (OAT), c'est-à-dire à financer nos déficits, rémunérer nos infirmières et nos instituteurs et... payer nos cadeaux de Noël. Le vertige a augmenté en réalisant que notre générosité contribuait directement à consolider « la dictature-internationale-des -marchés-financiers » et à renforcer le pouvoir sadique de nos créanciers.
 「儲けたユーロを中国はOAT(フランス国債)の買い付けに使う、いいかえればわが国の赤字額を融資して、看護師や教員の給与を支払い、...わたしたちのクリスマス・プレゼント代を支払ってくれることになる。目まいは次の事を実感すれば、さらに強まった――わたしたちが金を使えば使っただけ<金融市場の国際的独裁体制>を補強し、わが債権者たちのサディスト的な力を強化することになった」
 要するに、共産主義国だった中国は今や資本主義の最先端に立って世界を制圧しているが、そこへ中国を誘ったのはアメリカだった、というわけ。
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