朝比奈 誼先生のフランス語にまつわる素敵なお話




セ・サンパ
感じいい!親切!ちょっと贅沢!「セ・サンパ」とパリジャンは表現します。そんなサンパなパリを、ほぼ毎週更新でご紹介しています。
バカロレア 2012.7エッセイ・リストbacknext

同年齢層におけるバカロレア合格者の比率
 6月はbaccalauréat(bacと略されることが多い)の月だった。これがla fin des études secondaires「中等教育の修了」と同時にl’accès à l'enseignement supérieur「高等教育への進学資格」を認定する国家試験であることは周知のとおり。今年は一部海外県をのぞき、6月18日から22日にかけて行われた。
 この試験の創設は1808年、皇帝ナポレオン1世の時代にさかのぼる。昔は難関として知られていて、不合格者の中にはMalrauxやZolaのような大文学者もいる。しかし、第二次大戦後、それも1970年代以降に高等教育の大衆化が進み、受験者が急増した。2012年度の出願者数は、Ministère de l'Education nationale「国民教育省」によると、去年より7.7%アップ、70万を超えてしまった。日本の大学入試センター試験の受験者が56万にとどかなかったことを考えると驚くべき数字だ。しかも総人口でいうと、フランスは日本の約半分にすぎないから、バカロレアの規模の躍進ぶりがよけいに目立つ。当然、bacheliers「バカロレア合格者」もふえつづけてきた。(国民教育省作成のグラフ参照)
 試験はリセのla première(中等教育第6学年)の学年末のles épreuves anticipées「予備試験」と、la terminale(同最終学年)の学年末のles épreuves terminales「最終試験」の2期にわたるが、いわゆるbacの本番はむろん後者である。中等教育の3コースに対応して3タイプあるが、主に大学l'universitéやグランド・ゼコール準備学級les classes préparatoires aux grandes écolesへの進学者が選択するのはle baccalauréat général「普通バカロレア」で、その中が以下のように3分されている。
 (1)le baccalauréat économique et social「経済・社会バカロレア」(略称ES):objectif「目標」:d'approfondir une culture économique fondée sur l'esprit de synthèse, la curiosité「分析精神、好奇心に根ざした経済学的教養を深めること」。
 (2)le baccalauréat littéraire「文学バカロレア」(L) : 目標:d'approfondir une culture littéraire fondée sur l'analyse, la mise en perspective d’une œuvre et l'argumentation, ainsi que d'acquérir une réflexion critique nourrie par l'enseignement de philosophie.
「ある作品の分析・展望および論証に根ざした文学的教養を深めること、同時に、哲学教育で培われた批判的考察力を獲得すること」。
  (3)le baccalauréat scientifique「科学バカロレア」(S) :目標:de développer une réelle culture scientifique fondée sur des connaissances et une approche expérimentale des science「科学の知識と実験的な取組みに根ざした真の科学的教養を発達させること」。
 (2)を例にとって、5日間にわたる試験の時間割を示そう。いずれも筆記試験écritだ。( )内は
試験時間

►月曜日 8時~12時(4時間) Philosophie「哲学」
  14時~16時 (2時間) Littérature「文学」
►火曜日 8時~12時 (4時間)  Histoire-géographie「歴史・地理」
  14時~15時半(1.5時間) Mathématiques-informatique「数学・情報科学」
►水曜日 8時~12時(4時間) Français et littérature「国語と文学」
  14時~17時(3時間) LV 1「現用語*1」
*langue vivante :英語、ドイツ語など(langue ancienne「古代語」の対)
►木曜日 8時~11時 (3時間) Latin「ラテン語」
  14時~17時 (3時間) LV 2, étrangère ou régionale「現用語2、外国語または地方語」
►金曜日 8時~9時半 (1.5時間) Enseignement scientifique「理科」
  14時~17時半 (3.5時間) Arts (épreuves écrites)「芸術」(筆記試験)
  14時~17時 (3時間) Grec ancien「古代ギリシア語」
Mathématiques「数学」


発表の掲示を見る受験生たち
photo: daylife
 因みに(1)の場合は、木曜日にSciences économoiques et sociales「経済・社会科学」が、(3)の場合は金曜日にPhysique-chimie「物理・化学」などが来る。
 興味深いのは、受験者数の膨張にもかかわらず、今も筆記試験の伝統が堅持されている点だ。筆記試験となると、膨大な数の答案を採点するための人手がいるし、人手がふえればそれだけ評価の個人差が大きくなり、公平が脅かされる。昔、bacの採点に動員されたというリセの教員から聞いたのだが、各自が自分の判断で採点するのであり、そこに疑問をはさむ余地はないのだそうだ。日本の大学や仏検に長く関わった私からすれば、フランス流の採点には首をかしげざるをえない。周知のように、日本では選択肢の番号や記号を選んで鉛筆で塗りつぶすOMR方式が一般化しているが、その背景には、採点者の頭数を減らすという経済性よりも先に、採点者の恣意で試験の公平さが崩れることに対する恐れがつよく作用している。他方、フランス人からすれば、OMRのような機械に生身の人間の評価を委ねてしまってよいのか、それは教育者の自殺行為ではないのか、という反論が出てくる。この点はもっと踏み込んだ検討が必要だが、別の機会にゆずる。
 今回は締めくくりに、受験生の数の増加にともなう質の低下を示すperle「珍答案」を2011年のbacから紹介しておくことにする。(下線の指示は朝比奈)
 L'affaire des SK montre bien que la justice britannique ne rigole pas avec les femmes de ménages.
 Dominique Strauss-Kahn(本欄でもとりあげたことがある)DSK事件のことを論じるつもりが、Dがdes(前置詞と定冠詞の縮約形)になり、またニューヨークでの事件なのに「英国の」になってしまった。せめてanglo-saxonneとすべきところだろう。
 「SKの事件が明示しているのは、英国の法廷は掃除婦を相手にからかったりしないということだ」
 La Suisse est une fée des rations.
 むろん「スイスは連邦(une fédération)国である」と言いたいのだろう。このままならrations「(1日分の)糧食;割り当て量」のfée「妖精」となり、訳がわからない。
 L'Union Européenne a été créée par Napoléon 1er en 1915.
「EUは1915年にナポレオン1世により創設された」
 
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