朝比奈 誼先生のフランス語にまつわる素敵なお話




セ・サンパ
感じいい!親切!ちょっと贅沢!「セ・サンパ」とパリジャンは表現します。そんなサンパなパリを、ほぼ毎週更新でご紹介しています。
メード・イン・フランス 2014.5エッセイ・リストbacknext

習近平中国国家主席
 安部首相の今回の訪仏はほぼ無視されたようだ。Le Monde紙も、5月5日の首都圏地震はいち早く報道したが、首相についてはCe surprenant Shinzo Abe「あの驚くべき安部晋三」という解説記事をのせるにとどまった。靖国神社参拝とか、アベノミクスとか確かにsurprenantな人物にはちがいない。日本通の筆者Sébastien Lechevalier氏は日本が内外にかかえる諸問題とそれへの対応に言及しながら、おおむね好意的な見方に立ったうえで、安部政治はフランスへのleçonだ、という。日本人読者からすれば歯がゆい感じだが、その末尾の文句がいささか皮肉にひびく。下線部は接続法、あくまでも願望にすぎぬことに留意しよう。考えようによっては、対岸の火事視していることになるだろう
 C’est pourquoi on ne peut que souhaiter que M.Abe continue de nous surprendre et qu’il trouve en la France un partenaire privilégié.(下線は朝比奈)
 「そんなわけで、安部氏が今後もわれわれを驚かせつづけ、フランスを特恵的な相手国と認めてくれるよう、希望できるのはそれのみだ。」
 これに比べると、3月22日から4月1日にかけて行われた中国の習主席のヨーロッパ歴訪は派手な報道合戦をまき起こした。フランス各紙は到着前から連日のように特集記事を組む意気込みだった。その流れの中で、3月27日付けLe MondeはDécryptage「暗号解読」(ニュースの「深読み」に相当する)欄にValérie Niquet氏(Responsable du pôle Asie à la Fondation pour la recherche stratégique戦略研究財団アジア部門主任)のLa Chine, une puissance inachevée「中国、未完成の強大国」と題する解説記事を掲げ、ウクライナ問題に対する中国の困惑振り(制裁に関する国連安保理決議の採決で棄権し、ロシアの反対に同調しなかった)の背景を探ろうとした。ここに中身をとりあげるつもりはないけれど、興味深いので、記事の書き出し部分だけを引く。
 Le président chinois Xi Jinping arrive en Europe, auréolé de son statut de président de la deuxième puissance mondiale. Mais la République populaire de Chine compte-t-elle vraiment au rang des toutes premières puissances dans le monde ? C’est la question que l’on doit se poser si l’on veut maîtriser au mieux nos relations avec Pékin.
 「中国主席習近平は、世界第二位の大国の大統領という身分を笠に着てヨーロッパに到着した。しかし、中華人民共和国は世界の超大国の地位に本当に立っているのだろうか。これこそ、わが国と北京政府との関係をもっとも適切に保持したいと望むなら、自らに問うべき質問である。」
 いいかえれば、中国には世界をリードするだけの資格がまだない。一方では鷹揚にエアバスを70機も発注して不景気のフランスを喜ばせたが、他方、在留中国人による反政府デモを警戒するあまりパリのメトロに部分的な運休を要求するという小心さを隠せなかった。上の記事はその矛盾を突こうとした。同じ疑惑はフランスに根深くひろがっている。以下には、別の角度から中国の暗部を暴いていると思える記事を紹介する。同紙3月29日付けの三面記事Des tours Eiffel miniatures made in France, c’est possible !「フランス製のミニチュア ・エッフェル塔、それが可能なんだ!」がそれである。
 Tout a commencé dans un magasin de souvenirs, lorsque Rodolphe Grosset et Yves Guilloux ont découvert que les Chinois de passage à Paris repartaient souvent avec de charmantes tours Eiffel miniatures... made in China ! Un retour à l’envoyer jugé aberrant par ces deux commerçants dans l’âme.
 「すべてはある土産物店で始まった、パリに来た中国人観光客がたいていかわいいミニチュア・エッフェル塔を携えて帰国するのだが、ロドルフ・グロッセ、イヴ・ギユウはそれが中国製であることを発見したのだった!送り主への返送であるが、根っからの商人である二人は、これはばかばかしいと判断した。」
 彼らは1996年からワインなどproduits gastronomiques 「料理材料」専門の店をパリのほか、香港、マイアミに出してヒット。この発見を機に、2011年にPassion Franceという会社を起こして、地元産の土産物で観光客を引き寄せようと考えたのだが、手始めに扱ったのがフランスのシンボル、エッフェル塔だったのである。
 Un vrai pari. Car dans ce domaine, la production est délocalisée depuis longtemps. L’essentiel des boules à neige, porte-clés et autres souvenirs distribués en France est fabriquée en Asie. En Chine, les Salons professionnels proposent aux importateurs des tours Eiffel, de Pise, des portes Brandebourg, etc, en série, peintes par des ouvriers jamais sortis de leur village.

スノードーム
 「大博打だった。というのも、この分野では、生産はずっと以前から海外に移っていたからだ。スノードーム、キーホルダー、その他フランスの土産物店で売られている土産物の大部分はアジア製である。中国では、専門の見本市が輸入業者に対し、大量生産されたエッフェル塔、ピサの斜塔、ブランデンブルク門などを提供するのだが、これらは生まれ故郷の村から一歩も出たことのない職人たちが絵付けをしたものなのだ。」
 これらがパリでは闇ルートで取引される。2013年7月には、Bourgetの倉庫で約60トンにのぼるミニチュア塔が摘発された。不正取引の首謀者として中国人が逮捕され、捜査は今も進行中だという。中国の闇の力がパリの土産物店の背後にひろがり、業界を支配していたことになる。これに気づいたとなれば、フランス人の企業家も黙ってはいられない。
 Passion Franceは少数ながら商品の生産能力を持つPME「中小企業」に呼びかけた。
 « Nos tours Eiffel en métal sont réalisées en région parisienne » précise M. Grosset.
 「<わが社の金属製エッフェル塔はパリ首都圏で作られたものですよ>とグロッセ氏はいう。」
 輸送費と関税がゼロだから、生産原価の中国産品との差は埋め合わせがつく。
 En 2013, le groupe a réalisé un chiffre d’affaires proche de 3 millions d’euros. Son nouveau cheval de bataille s’appelle Paris-Cola, une boisson fabriquée avec du sucre de la région parisienne, embouteillée à Cholet(Maine-et-Loire). La tour Eiffel figure en bonne place sur l’étiquette.
 「2013年には、グループは300万ユーロ近い売り上げを達成した。新しい目玉商品はパリ・コーラと呼ばれる。パリ地域産の砂糖を用いて製造され、ショレ(メーヌ・エ・ロワール県)で瓶詰めされた飲料だ。ラベルには目立つようにエッフェル塔が描いてある。」
 フランスの象徴エッフェル塔を中国から奪還したという図式である。
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