朝比奈 誼先生のフランス語にまつわる素敵なお話




セ・サンパ
感じいい!親切!ちょっと贅沢!「セ・サンパ」とパリジャンは表現します。そんなサンパなパリを、ほぼ毎週更新でご紹介しています。
 
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ゴルフに興じるトランプ大統領
 今は日本時間で11月13日夜、本稿はアメリカの新大統領の話題を取り上げるつもりでいたが、当てがはずれた。Biden氏が次期大統領として日本の首相はじめ多くの外国首脳と電話会談しているのを尻目に、現職が交代を認めず、お得意のTwitterに次のように書いている始末だからだ。そのまま転記するが、和訳するにはおよぶまい。
 These states in question should immediately be put in Trump Win column. Biden did not win, he lost by a lot.
 この後に、Twitter社側の警告(?!)がついていることを見逃すまい。
 Official sources called this election differently.
 日本のマスコミは、この人物の意外な行動にたびたび足を掬われているから、「選挙の不正」fraudeという訴えに対しても及び腰のようだが、フランスの方は早くからTrump敗退の結論を見越していたのではないか。失格宣告ともいうべき記事を二つ紹介する。
 同じ日のwebサイトにフランスのLes Echos紙電子版は次の記事を掲げた。
 Le président américain se vante d’avoir remporté un total de 18 championnats amateur de club de golf américain. Mais après une enquête relatée dans un livre, le chroniqueur sportif Rick Reilly, qui a lui-même joué avec le président américain, n’a pu confirmer aucune de ces victoires.
 「トランプ大統領は全米アマチュア・ゴルフクラブ選手権でトータル18回も優勝したと自慢している。しかし、自身アメリカ大統領と一緒にプレーしたこともあるスポーツ評論家のリック・レイリーは、ある著書に載せた調査で、優勝を一つも確認できなかった由」
 ゴルフを通じて安倍前首相がこの大統領と友愛関係を深めたことは有名だが、その際、トランプ氏の腕前はプロ級といわれたように記憶する。この記事はその噂に対する反証であるばかりでなく、彼にはコケ脅かしの癖があり、しかもしばしばウソをついて恥じない(あたかもウソと真実の区別がつかぬかのように)場面が生活のあちこちで常態化していることを示しているだろう。
 むろん、遊び事だけにかかわる話ではない。Le Monde紙は選挙前に論説委員Stéphane Lauerの時評記事Les paris perdus de Donald Trump「ドナルド・トランプの外れたギャンブルの数々」を載せた(10月19日付)。こういう書き出しではじまっている。
 L’image était belle. Le 28 mars 2017, au siège de l’Agence de protection de l’environ- nement, à Washington, une douzaine de mineurs posaient derrière Donald Trump pour immortaliser « la fin de la guerre contre le charbon ». Le président des Etats-Unis venait d’annuler plusieurs décrets favorables à l’environnement décidés par Barack Obama. « Nous allons remettre nos mineurs au travail », proclamait-il sous les applaudissements, entretenant ainsi l’espoir que le volontarisme politique suffirait pour stopper un déclin que ses opposants disaient inéluctable.

勝利宣言するバイデン氏
 「見事な写真だった。2017年3月28日、ワシントンの環境保護庁前、ドナルド・トランプを中心に12人ばかりの炭鉱労働者が立つ写真で、<反石炭戦争の終結>を不滅のものにしていた。合衆国大統領はバラック・オバマによる環境保護に関するいくつかの大統領令を破棄したところだった。彼は「炭鉱労働者を職場に戻せることとなった」と拍手を受けながら叫び、政治の積極的介入さえあれば、野党が不可避と言っていた炭鉱衰退を止められるという希望をつないだ」
 この希望がラストベルトといわれる地域の労働者から支持を勝ちとる餌になったことは日本のマスコミでも繰り返し伝えられた。しかし、その後、トランプの約束は本当に果たされたのか。それを具に知らせてくれる報道は私には届いていなかった。だが、この記事は後日談に触れている。
 Trois ans plus tard, les promesses sont parties en fumée et Donald Trump évite désormais de parler de la renaissance de la houille. Depuis son investiture, 145 centrales à charbon ont été mises à l’arrêt, entraînant la suppression de plus de 10 % des emplois du secteur. Sur la période, la part du charbon dans la production d’énergie des Etats-Unis est passée de 31 % à 20 %. Cette activité n’avait jamais connu un tel déclin au cours d’une mandature.
 「3年後、約束は雲散霧消したが、その後ドナルド・トランプは石炭産業再生に言及することを避けている。彼が着任して以来、火力発電所は145か所が操業停止になり、この部門の雇用は10パーセント以上削減された。この間、米国のエネルギー生産に占める石炭の割合は31パーセントから20パーセントに低下した。この部門が一大統領の任期中にこれほど落ち込んだ例はいまだかつてない」
   彼の空約束はいくつも指摘され、いちいち紹介しきれないが、一つだけ触れておこう。
 Concernant les 550 millirds de dollars (470 milliards d’euros) d’investissements dans les infrastrutures promis en 2016, pas 1 cent n’a été engagé au cours du mandat. Ce qui n’empêche pas Donald Trump de vouloir doubler la mise en cas de réélection.
 「2016年に約束された5500億ドル(4700億ユーロ)のインフラへの投資に関していえば、これまでの任期中1セントたりと投入されていない。にもかかわらす、再選に関しては意欲を倍増させている」
 最後に中米関係についても触れておこう。修辞法が面白い。
 Pas plus que le Mexique n’a payé pour construire le mur fantasmatique que Trump voulait ériger à la frontière entre les deux pays, ce n’est pas la Chine qui a réglé la facture de ce protectionnisme, mais le consommateur américain, comme l’ont démontré plusieurs études.
 「トランプが国境に建設を望んだ幻想的な壁の工事費をメキシコは払わなかったが、それと同様に、問題の保護主義貿易のツケを払ったのは中国ではなくて、アメリカの消費者である、これはすでにいくつかの研究が証明している通りだ」
 筆者はこれと逆のことをトランプ支持者は信じ込まされていると警告しているが、今度の選挙でこのウソつき男が獲得した7000万票は筆者の警告が正当であることを証明しているようで愕然とする。しかし、その一方、彼がsleepy Bidenと罵倒した人物が7400万票を取って勝ったこともまた事実だ。彼はそれをウソだと言いくるめようとしている。
 イソップ童話のオオカミ少年を思い出す。オオカミ少年ならぬオオカミ老人はウソを重ねてきた。今度に限ってはウソではなかったのかもしれない。でも、世人は今度もまたウソだと思ってしまった。
 
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