朝比奈 誼先生のフランス語にまつわる素敵なお話




セ・サンパ
感じいい!親切!ちょっと贅沢!「セ・サンパ」とパリジャンは表現します。そんなサンパなパリを、ほぼ毎週更新でご紹介しています。
 
二つの100周年 2021.6エッセイ・リストbacknext

北京の国家博物館
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 前回を受けて、習国家主席と、彼が率いる中華民族の「願い」を明らかにしよう。それには、指導者習近平の出発点に立ちかえるのが手っ取り早い。
 彼が中華人民共和国主席Président de la République populaire de Chineになったのは2013年3月だが、それより前、2012年11月には共産党総書記Secrétaire général du Parti communiste chinoisのポストを胡錦涛Hu Jintaoから引き継いで、権力を手にしていた。ただ、党運営に囚われた先任者たちとは違って、アメリカの政治家並みに人民への呼びかけを好み、演説に力を入れるタイプだ。そのため注目すべき発言をいくつも残しているが、特にリーダーとしての第一声が面白い。
 今思えば、彼がその発言の場を定番の人民大会堂Palais de l’Assemblée du Peupleではなく、天安門広場を挟んで建つ中国国家博物館Musée national de Chineに求めたことも意味深長だ。というのも、この博物館(コロナ禍前の話だが、2019年にはスミソニアン自然史博物館、ルーブル美術館を超えて、世界一の観客を集めた由)は歴史博物館m. de l’Histoire de Chineと革命博物館m. de la Révolution chinoiseを合体させ、大改装の上でその年3月に開館したばかり、折しも「復興への道」Voie de la renaissanceと題するune exposition consacrée à la mainmise des puissances coloniales sur la Chine「列強植民地主義国の中国支配展」が目玉だったからである。阿片戦争にはじまり日清戦争を経て日中戦争にいたるhumiliations「屈辱」の証拠を視察した後で、彼は述べたのだった。
 « Je crois que le plus grand rêve des Chinois, c’est la renaissance de leur nation dans les temps modernes »
 「中国人の最大の夢、それは我が国が現代に復興することだと思います」
 これは人心にアピールし、「夢」はその年の漢字に選ばれたばかりでなく、rêve chinoisは国内外に広まって、彼の政治思想の原点になった。彼はつづけた。
 « Plus de cent soixante-dix ans après d’âpres luttes commencées avec la guerre de l’opium, s’ouvrent de brillantes percepectives pour la nation chinoise plus proche que jamais de son but, un grand renouveau. »
 「阿片戦争とともに始まった激戦から170年以上たつ今、中華民族には自分たちの目標、すなわち偉大な復興にこれまでになく近い展望が開けています」
 この展望は、その後つぎのようにまとめられた。
Le XVIIIe Congrès du PCC a tracé un plan grandiose pour parachever la construction in extenso d’une société de moyenne aisance et accélérer la modernisation socialiste. Il a lancé un appel pour progresser vers les objectifs des « deux centenaires ».
 「中国共産党第18回全国代表大会は、小康社会([仏語に従えば]そこそこにゆとりのある暮らしが送れる社会)の全面的な達成と社会主義現代化の迅速な推進とを目指す壮大な青写真を描いた。<二つの100周年>なる目標に向けて邁進しようという呼びかけをした」
 Le premier est de parachever la construction in extenso d’une société de moyenne aisance, et de doubler le PIB et le revenu moyen par habitant en ville comme à la campagne par rapport à 2010, pour la célébration du centenaire de la fondation du PCC en 2021.
「一つ目は、小康社会の全面的建設を達成し、GNPと都市・農村部住民個々の平均所得を2010年比で倍増して2021年に中国共産党結党100周年を祝うことである」
 真っ先に国民所得の倍増という目標をたてたわけだが、私のような年配者は池田内閣の「所得倍増計画」(1960年)を連想する。一方、中国国家統計局公表のGDPの額と、李克強Li Keqiang首相の発言「中国の6億人の月収は1000元(約1万6000円)」との食違いが昨年物議をかもした背景が2021年という期限にあったことに気づきもする。

中国・香港特別行政区、両旗の掲揚 (ゴールデン・バウヒニア・スクエアー) ※画像をクリックで拡大
 Le second est de transformer, pour la célébration du centenaire de la fondation de la République populaire de Chine en 2049, la Chine en un pays socialiste moderne, prospère, démocratique, harmonieux et hautement civilisé, qui aurait atteint le niveau d’un pays moyennement développé
 「二つ目は、2049年の中華人民共和国建国100周年を祝うために、中国を富強・民主・融和・高文化の現代的社会主義国家に変革することであり、そうなれば、中等先進国の水準に達するだろう」
 前回扱った宇宙大国への狂奔、そのわけはここにあったのだ。ただ、この目標設定には虚飾が目立つ。Hongkong情勢一つ見てもdémocratiqueどころではないし、ましてOuïghoure族の扱いを思えばharmonieuxという語はいかにも空空しい。にもかかわらずLes objetifs des « deux centenaires » concrétisent le plan admirables et les perspectives brillantes du rêve chinois. 「<二つの100周年>の努力目標は、<中国の夢>のすばらしい青写真と輝かしい将来を具体化したものだ」と習政権は言いつづける。
 彼は2021年新年の挨拶の結びで、第一目標を達成したPCCが7月1日に結党100年を迎えることを述べた上で、第二目標に向けて進む決意をあらたにして憚らない。
 しかし、今回のG7が示すように、中国を見つめる海外の目は厳しい。将来を問うた記者に答えた中国学者Chloé Froissartはこう答えている。(4月4日付Le Monde紙)
 Depuis son accession au pouvoir en 2012, Xi Jinping n’a eu de cesse de renforcer l’autorité du Parti, son emprise sur l’Etat, la société et l’économie, à travers l’éradication de la société civile, l’emprisonnement des activistes, des avocats, et la création de cellules du Parti dans les entreprises, y compris les sociétés étrangères. Mais justement, cette volonté du PCC d’éradiquer tout ce qu’il ne peut pas absorber révèle plus de fragilité que de force. Son pouvoir repose sur la terreur, mais lui-même vit dans la terreur.
 「習近平は2012年に権力の座について以来、たえず強化し続けてきた、共産党の権威を、市民社会活動の根絶やしを介した国家・社会・経済の党による支配を、活動家・弁護士の投獄を、外国系もふくめた各企業内への共産党細胞の構築を。しかし、党が吸収できぬものはこれを一切根絶やしにするという中国共産党のこの意志は、強さというより脆さを露呈している。その権力は恐怖に根ざしているが、党自身も恐怖のなかで生きているのだ」  旧ソビエト共産党の支配は74年つづいた。中国共産党の支配は今年で72年になるが、はたしてこの先も無事につづく、と言えるのだろうか。


 
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