朝比奈 誼先生のフランス語にまつわる素敵なお話




セ・サンパ
感じいい!親切!ちょっと贅沢!「セ・サンパ」とパリジャンは表現します。そんなサンパなパリを、ほぼ毎週更新でご紹介しています。
 
接頭辞と世相 2025.2エッセイ・リストbacknext

アマゾンの森林破壊 ※画像をクリックで拡大
 接頭辞préfixeとは、「語(幹)の前に添え、その意味を変化させる接辞(affixe)」(新朝倉文法事典)のこと。例をあげればinternational「国際的な」という語のinter、malhonnête「不正直な」のmalがそれに当たる。それがどうして「世相」につながるのか?それはおいおい分かってくるはず。
 まずは最近のフィガロ紙の記事から、接頭辞の一つdé-(太字の語)の存在価値に注目したい。
 最初はAu Brésil, l’équivalant de la superficie de l’Italie a brûlé l’an dernier「ブラジルでは昨年、イタリアの総面積に等しい領土が消失した」と題する記事(1月28日付)の場合。
 La nouvelle semble paradoxale:en novembre dernier, les autorités brésiliennes annonçaient une chute de plus de 30 % du rythme de déforestation de l’Amazonie entre août 2023 et juillet 2024.
 「このニュースは逆説的に思える。昨年11月、ブラジル政府は、アマゾン平原における森林破壊 の速度が2023年8月から2024年7月までの間に、30パーセント以上の割合で減少したと発表していたのだから」
 Bolsonaro前大統領任期中のdes années déforestation à tous crins「やり放題の森林破壊時代」のあと、Lula大統領はアマゾン平原でのzéro déforestation を目ざした。皮肉なことに、現政権の骨折りを未曽有の山火事が文字通り煙に代えてしまったという悲劇だ。これもまたréchauffement climatique「気候温暖化」の現れなのだろう。forêt「森」が語幹。同義のbois「森」の方が派生関係をたどりやすい。boisからboiser「植林する」→déboiser「伐採する」→dé-boisement「伐採」。déforestationには「濫伐」の意が加わる。すると、この展開は人間により森が失われていく様子を活写していることにならないか。以下の場合も同様、dé-の機能は明快だ。
 次は財務大臣Eric Lombardの発言を批判したクロニクル(2月15日付)。Guizo disait : « En- enrichissez-vous ! », Lombard dit : « Appauvrissez-vous ! »「昔ギゾーは<金持ちになりなさい!>と言ったが、今ロンバールは<貧乏になりなさい!>と言う」。実に挑発的な見出しだ。
 « La principale priorité du moment, c’est la transformation écologique. Et s’adapter demandera beaucoup d’investissements qui ne sont pas toujours rentables, et cela risque de conduire à une baisse de la rentabilité des entreprises. Il faut l‘accepter. »
  「現在の最優先事項は環境対策への転換だ。そして、これに順応しようとすれば莫大な投資がいるが、その投資が利潤をうみだすとはかぎらず、企業の収益性低下につながるおそれがある。この事態を受けいれなくてはならない」
これをクロニクルの筆者は「貧乏になりなさい」という風に受け止めた。そして結論する。
 C’est leur manière polie de nous vendre la pénurie et la décroissance.
 「国民に窮乏や衰微を売りつける、彼らなりに丁寧なやり方なのだ」
「衰微」と訳したが、croissance「[経済]成長」が止まり、後退することを意味している。
 次は評論家Samuel Fitoussiが欧州委員会委員長Ursula Von der LeydenになりすましてTrumpとMusk宛に捧げた祝辞(1月27日付)。皮肉たっぷりに書き出される。



フランソワ・ギゾー ※画像をクリックで拡大
 Bravo pour votre élection. La Commission européenne respecte le choix des électeurs obèses et incultes américains. Nous savons toutefois que, votre victoire, vous la devez aux algorithmes, aux fakes news et à un discours populiste jouant sur les peurs.
 「ブラボー、ご当選。贅肉ばかりで教養のないアメリカ選挙民たちの選択を欧州員会は尊重いたします。でもわたしたちには分かっています、あなた方の勝利は、アルゴリズムやフェイクニュースや不安をテコにしたポピュリスト的スピーチのお蔭で勝ちえたものなのです」
  その上で四つの提案がなされるのだが、その四番目はこうなっている。
...afin de nourrir l’amour des jeunes générations pour les valeurs européennes, nous créerons à Bruxelles un grand musée de la lutte contre la désinformation. <...>Notre jeunesse, sensibilisée à l’importance des faits et de la vérité, les propagandistes américains ne pourront plus l’ntoxiquer avec des mensonges comme « il n’y a que deux sexes ».
 「ヨーロッパ的な諸価値を若い世代に愛してもらえるよう、ブリュッセルに大規模な反偽情報戦争博物館を創設します。<...>ヨーロッパの青年たちは、事実と真実の重要性への関心を高められ、アメリカの宣伝屋たちも彼らを<この世には二つの性しかない>といった嘘で毒せなくなるでしょう」
information「情報」に対してdésinformationは意図的な情報操作、攪乱を意味するわけだ。
 最後はL’Amérique de Donald Trump saisie par la démesure 「ドナルド・トランプのアメリカは 羽目がはずれている 」と題する評論家Nicolas Baverezのクロニクル(2月10日付)。
 詳細は省くが、トランプ政権がうちだした突拍子もない提案を列挙した後―世界中に轟いたものばかりー筆者はこう総括する。
 La seconde Administration Trump est donc tout entière placée sous le signe de l’hubris. Pour les philosophes de la Grèce antique, à l’image d’Hérodote soulignant que « le ciel rabaisse toujours ce qui dépasse la mesure », cette démesure qui mêle passion, orgueil, outrage et transgression, s’achève toujours par l’anéantissement des hommes ou des cités qui y succombent.
 「第二次トランプ政権はこんなわけですっかりヒュブリュスにひたっている。<天は節度を越えるものを常におとしめる>と強調するヘロドトスにならって考えれば、古代ギリシアの哲学者たちにとって、激情・侮辱・違反をないまぜにしたこうした行き過ぎは、常に、これに負けた人間または都市を滅亡させる形で終わるものなのだ」
 「行き過ぎ」のところ、上では「羽目がはずれている」と訳したが、mesure「節度;標準」を越えていることであり、Excès, outrance qui se manifeste dans les propos, les comportements etc (Petit Larousse辞典)「発言・行動などに表われる過度、極端さ」を意味していて、問題の大統領 にぴったりの語だ。 因みに、ヒブリュスはもともとはギリシア語で、とりわけギリシア悲劇では現実を無視した奢りのため神々の制裁を招く主人公たちの態度を指す。要するに、筆者はトランプ政権の行き過ぎが最終的には悲劇に終わることを警告しているのだ。
 こう見てくると、接頭辞dé-を抱えた単語群はいずれも現代世界が行きついた末期症状をそれぞれの形で露わにしていることは明白だろう。わたしたちは、それぞれのdé-を外した語に立ち返ってこそ、再生の希望をもてるのではないか。

追記  200回を超える既往のコラムの一部を選んで、紙媒体の冊子を作りました。題して「ア・プロポ――ふらんす語教師のクロニクル」。Amazon, 楽天ブックス三省堂書店(WEB)などオンラインショップで販売中です。
 
 
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