朝比奈 誼先生のフランス語にまつわる素敵なお話




セ・サンパ
感じいい!親切!ちょっと贅沢!「セ・サンパ」とパリジャンは表現します。そんなサンパなパリを、ほぼ毎週更新でご紹介しています。
 
強者の横暴 2025.3エッセイ・リストback|next

ロナルド・レーガン元大統領 ※画像をクリックで拡大
 Trump大統領がまきおこした、いや、まきおこしつつある騒擾はますます大きくなるばかりだ。フィガロ紙の紙面にもそれは色濃く反映されている。二つ例をあげよう。
 一つ目はTrump ou la troisième mort de Ronald Reagan「トランプ、言いかえるとロナルド・レーガンの3度目の死」(2月25日付)と題するPierre-Yves Duguaのクロニクル記事。ホワイト・ハウスにおける例のZelensky大統領とのaltercation「口論」の直前に書かれた文章なのだが、トランプはとっくにロシア寄りの姿勢をちらつかせてウクライナを見捨てたかのような印象を与えていた。そこで筆者は、冷戦を終結させ、共産主義圏からの移民を受け入れ、世界に開かれたアメリカを築いたレーガン大統領の業績を強調した上で、関税を武器に孤立主義で固めるトランプの立ち位置はレーガンの対極にあり、同じ共和党の先輩を「殺した」と論難した。筆者の目からすれば、トランプはすでに第1期政権時代に、共和党をun parti populiste et protectionniste「保護主義的なポピュリスト政党」に変貌させて偉大な先人を抹殺していたから、レーガンは生理的な死に加えて、トランプから2度「亡き者」にされたことになる。その上で、筆者はトランプの矛盾を告発する。
 Comment prendre au sérieux l’appui américain à Taiwan, si la théorie des sphères d’influence est acceptée comme donnée de base de l’ordre international? Si l’on veut mettre la main demain sur le Groenland, voire le canal de Panama, peut-on reprocher à la Russie ou à la Chine de vouloir aussi leur espace vital?
 「アメリカの台湾支援をどうして真面目に受けとれるだろうか、もし支配権というセオリーが国際秩 序の基礎データとして容認されるとしたならば?もしグリーンランド、さらにはパナマ運河を領有したいと望むとしたならば、自国の生活圏(一国民の必要領土)を欲しがるといって、ロシアあるいは中国を非難することができるだろうか?」
 二つ目は3月4日付、L’Europe sans pistolet 「丸腰のヨーロッパ」と題する社説。Vincent Trémolet de Villersが筆者だ。見出しを補足すれば、両軍事大国ロシアとアメリカの間にあって、ヨーロッパは無防備、ということ。トランプがNATOからの撤退を仄めかして脅しをかけたことへの反応だ。
 興味深いのは、冒頭にマカロニ・ウエスタンの傑作として名高いSergio Leone監督のLe Bon, la Brute et le Truand 「善玉、悪玉、卑劣漢:(邦訳名)続、夕陽のガンマン」中の殺し文句(若い頃のClint Eastwoodが口にして一世を風靡した)が紹介されていることだ。
 « Tu vois, le monde se divise en deux catégories : ceux qui ont un pistolet chargé et ceux qui creusent... » Dans la brutalité des temps, c’est la doctrine de Sergio Leone qui gouverne les Etats-Unis.
  「<いいか、世界は2種類の人間に分れている。弾を込めた銃を持つ人間と、墓を掘る人間だ> 現代の暴力横行の渦中にあって、米国を支配しているのはセルジオ・レオーネのドクトリンなのだ」
筆者はなげき、悲しむほかない。
 C’est sommaire, vulgaire, c’est la force qui l’emporte sur le droit, la société du spectacle qui atomise les raffinements diplomatiques ; c’est déplorable. Mais c’est comme ça.
「浅薄で、低俗だ。力が法に勝ち、すべてを見世物にする社会が洗練された外交術を粉砕してしまう。嘆かわしいけれど、これが現実なのだ」


「続、夕陽のガンマン」のクリント・イーストウッド ※画像をクリックで拡大
 すべてを見世物にする社会が洗練された外交術を粉剤する、というのは、上記の「口論」を指しているのだろうが、あのテレビ中継がトランプ流取引の正体を世界中に見せつけたことはまちがいない。この後、筆者はDe GaulleやPhilippe Séguin(ド・ゴール派の大物で、EUに反対し、フランスの無防備を憂い、ウクライナの悲劇を予見していた)の発言を持ち出し、手遅れだと言いつつ、現状に不満を述べるのだが、ここでは深入りしない。
 ところで、トランプ問題の深刻さは、圧倒的な軍事力を背景にしてMAGA「アメリカを再び偉大に」政策を宣言し、一方的に執行し、フィガロ紙の論説委員が指摘するように、「力が法に勝つ」状況をあちこちで生み出すだけではない。彼にはそもそも「法」を冒している」という自覚がないばかりか、罪を他に転嫁して憚らない。3月15日付の電子版記事が好例だ。
  États-Unis: Trump accuse les médias de pratiques «illégales»
Donald Trump a accusé ce 14 mars les médias américains qui critiquent sa politique d'avoir des pratiques «illégales» et d'être «corrompus». «Selon moi, ils sont vraiment corrompus (...). Ce qu'ils font est illégal», a-t-il déclaré depuis le ministère de la Justice, en visant notamment les chaînes de télévision CNN et MSNBC.
 「米国:トランプ、不法行為だとしてメディアを非難
ドナルド・トランプは3月14日、彼の政策を批判した米国メディアを、<不法>行為を侵し、<腐敗>しているとして非難した。<中略>彼は司法省に出向いて、そこから、特にCNNテレビとMSNBC(Breaking News and News Today)テレビを名指して<彼らのやっていることは非合法だ>と発言した」
 この厚顔無恥な態度にはあきれて笑いたくなるほどだが、ここで思い起こすのはイソップ寓話の一つ「狼と仔羊」だ。とりわけ面白いと思うのはLa FontaineのLe Loup et l’Agneauなので、次回に取り上げることにしよう。トランプ騒擾の展開がそんな余裕を私たちに与えてくれることを願うばかりだ。
 

追記  200回を超える既往のコラムの一部を選んで、紙媒体の冊子を作りました。題して「ア・プロポ――ふらんす語教師のクロニクル」。Amazon, 楽天ブックス三省堂書店(WEB)などオンラインショップで販売中です。
 
 
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