朝比奈 誼先生のフランス語にまつわる素敵なお話




セ・サンパ
感じいい!親切!ちょっと贅沢!「セ・サンパ」とパリジャンは表現します。そんなサンパなパリを、ほぼ毎週更新でご紹介しています。
空気を吸う 2015.10エッセイ・リストbacknext

La Pollution de l'Air, c'est quoi? ポスター ※画像をクリックで拡大
 respirer「息を吸う、呼吸をする」の派生語にrespirableがある。新スタンダード仏和辞 典は用例としてL’atmosphère n’est pas respirable dans cette famille.「この家の雰囲気は 息がつまりそうだ」をあげている。これで納得していたら、今度Ville respirable en cinq ansという文句に出会って面食らった。出所はMinistère de l’Ecologie, du Développement durable et de l’Energie「エコロジー・持続可能開発・エネルギー省」(略称MEDDE)、持 続可能な開発、環境政策、エネルギーおよび気候、交通および交通インフラ・設備、海洋 ならびに海洋漁業および養殖業を所管する役所のことだから、このrespirableは「呼吸で きる」の意味だろう。となると「5年がかりで大気を吸える都市を目指す環境改善計画」と 解するしかない。要するに、何気なしに吸っている空気、そのqualité de l’air 「空気質、 大気質」([英]air quality)に用心せねばならぬ時代になった、ということ。その昔、日本で は蛇口から出る水はpotable「飲用できる」と決まっていた時代に、フランスでは必ずしも そうではなかったことを想起する。今では水はおろか、空気までrespirableか否かを確か めないと、命にかかわる恐れがある。事実、インターネットではAtmo(la Fédération des Associations de Surveillance de la Qualité de l’Air「大気質監視協会連合」)が地域毎に大 気中のPM10・窒素酸化物・オゾン・硫黄酸化物に基づきtrès bonからtrès mauvaisま で10段階の指標を示し、日々危険に備えていることを見逃すまい。
 COP-21(la 21e Conférence des parties;[英]the Conference of the Parties)がパリで12 月に開かれる。フランス政府が今や国民の関心を高めようと躍起なのも無理もない。一例がLA POLLUTION DE L’AIR, c’est quoi?「大気汚染、それ何のこと?」という啓蒙ポスターだ。 手遅れのようにも思うが、読んでみると、こと改めてつぎのように解説されている。
 C’est la modification de la composition de l’air par des polluants nuisibles à la santé et à l’environnement. Ces polluants proviennent des activités humaines ou de la nature.
「それは健康や環境に有害な物質による空気の組成の改変です。この汚染物質の源は人ま たは自然の諸活動です」
 その後、諸活動 --- éruptions volcaniques「火山の噴火」、pollens「花粉」、feux de forêt「山火事」、érosion du sol「(人間による)自然破壊」、transports「運輸」、activités industrielles「産業活動」、agriculture「農業」、déchets verts「生ごみ」、trafic「交通」、 chauffage domestique「家内暖房」--- がpictogramme「絵ことば」で示され、それがポスターの本体になるのだが、汚染原因をできるかぎり広範に求めようとする姿勢が目につく。敵は工場の煤煙にとどまらない、身近な日常生活にも潜んでいるといいたいのだろう。
 さらに追い討ちをかけるように、Le saviez-vous?「知ってました?」という見出しを立て、 人の生存には1日あたり15 000リットルの空気が必要だとし、環境汚染には気象条件が 関係することを付け加える。自然は人間に対し、好意も悪意も抱いているわけではない。
 Le vent disperse les pollutions. Il peut aussi les déplacer. Ce qui n’est pas toujours favorable à une bonne qualité de l’air.
 「は公害をまきちらします。同時に運んでくることもあります。つまり、良好な大 気質の維持をいつも助けてくれるとはかぎりません」
 La pluie lessive l’air, mais peut devenir acide et transférer les polluants dans les sols et dans les eaux.
 「は空気を洗ってくれますが、酸性になって、地面や水を汚染することもあります」
 Le soleil, par l’action du rayonnement, transforme les oxydes d’azote et les composés organiques volatils en ozone.
 「太陽は輻射作用により、窒素酸化物と揮発性有機化合物をオゾンに変えます」
 La température, qu’elle soit haute ou basse, agit sur la formation et la diffusion des polluants, comme les particules.
 「気温は、高くても低くても、微粒子のような汚染物質の形成と拡散に影響します」
 MEDDEは6月から運動を展開し、この9月25日を第1回のJournée nationale de la qualité de l’air「全国大気質デー」に定めた。そして運動の目玉に据えたのが、上に述べ た « Ville respirable en 5 ans »へのappel à projets gouvernemental「政府への提案募集」 で、これに応じた地方自治体のうち、Grenoble-Alpes-Métropole(グルノーブル市とその周辺42自治体からなる主要都市、通称ラ・メトロ)の計画案が入選し、「5年がかりで大気を吸えるように改善する計画の都市」として財政支援を獲得することになった。

グルノーブルの市街地 ※画像をクリックで拡大
 この計画の中軸が自動車の速度制限で、Le Monde(9月15日付け)はこう書いている。
 C’est une première en France. A la mi-2016, dans la plupart des rues de l’agglomération grenobloise, la vitesse des véhicules sera limitée à 30 km/h.
 「これはフランスでは初めてのこと。2016年半ばには、グルノーブルの市街地の道路の 大半で、車両の速度は時速30キロに制限されることになる」
 同紙は市長がEurope Ecologie -Les Verts「欧州エコロジスト-緑の党」所属であること、 グルノーブル(1968年冬季オリンピックの会場だった!)の大気は冬と夏のピーク時に はフランスでもle plus irrespirable「呼吸にもっとも危険な空気の」都市の一つであること に触れたあとで、こう付け加えている。
 La limitation de la vitesse à 30 km /h dans l’ensemble d’une agglomération est une pratique courante en Allemagne ou aux Pays-Bas, mais la mesure, en France, n’est appliquée qu’à modeste échelle, dans des villes moyennes comme Lorient(Morbihan), Sceaux(Hauts-de-Seine) ou Fontainebleau(Seine-et-Marne).
 「市街地全体での30キロ速度制限はドイツやオランダでは普通に行われている措置だが、 フランスで実施されるのは小規模で、ロリアン(モルビアン県)、ソー(オー・ド・セー ヌ県)、フォンテーヌブロー(セーヌ・エ・マルヌ県)のような中都市に限られている」
 環境汚染に関する危機意識の薄さは、前記のポスターからもうかがえるが、そんな状 況のなかで、respirableな空気を求めてCOP-21の議長国フランスは正念場を迎える。

 
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