パリで活躍する素敵な方々にインタビューし、それぞれの「モンパリ」をお聞きします。



セ・サンパ
感じいい!親切!ちょっと贅沢!「セ・サンパ」とパリジャンは表現します。そんなサンパなパリを、ほぼ毎週更新でご紹介しています。
光に魅せられて 
その1 光の面白さを教えてくれたパリ 2007.01

観光都市パリの中でも、最も有名なスポットの一つ「ノートル・ダム大聖堂」には、毎年1200万人の観光客が訪れます。そのライトアップ・デザインに、日本人女性が参加していたということをご存知でしょうか?
ライティング デザイナー石井リーサ明理さんは、フランスを代表する照明デザイン事務所ライト・シーブル社で、チーフデザイナーとして、世界中の数々のモニュメント、イベントなどのライティングをデザインし、独立後の現在も、東京とパリを拠点に活躍しています。そんな石井さんが魅せられたパリとパリの光についてお聞きしました。

石井リーサ明理さん
1971年 東京生まれ。
1994年 東京芸術大学美術学部卒業
1996年 東京大学大学院総合文化研究科 修士課程 修了
その間、ロサンジェルス、パリにてデザインを学ぶ
1996年 ハワード=プランストン&パートナーズ社(ニューヨーク)にて研修
-1998年 石井幹子デザイン事務所(東京)スタッフデザイナー
-2003年 ライト・シーブル社(パリ)チーフ・デザイナー
2004年 株式会社I..C.O.N.設立
フランスにもフランス法人I.C.O.N.sarl設立
 ■ Interview
1、 パリへ留学時代に光に関心を持たれたそうですが、具体的に「光」の美しさを感じたスポットはありますか?それは、どんな観点からですか?
 照明デザインに関心を持ったのは、大学院時代にパリのデザイン学校に1年間留学した際、実地研修したことがきっかけでした。後にそこで働くことになったライト・シーブル社だったのですが、「都市や建築に物語を作るのが光」という代表デザイナーの考えに刺激を受けたのです。
また、パリにいると自然にその光の多様性と質に目を向けるようになりました。「光の街(ヴィル・ド・ルミエール)」という、哲学的思想を背景にした異名を持つことでも知られますが、パリの夜景の美しさは誰もが認めるところです。それは偶然ではなく、地区や歴史的背景に基づき、光の色も輝きも吟味され時には美しさを優先してパリ市当局に保護されているのです。一見古そうに見えるランタンも、実は中に最新の光源が仕組まれたりしているからなのです。
学生の頃、注意してパリの街角の光を観察するようになってから、その細かい工夫 が次々と目に入ってくるようになり、照明が幅広い、意味深い一つの表現手段だということに気付かされたのです。

2、 照明デザインのお仕事を始めるにあたり、アメリカでの研修の後、照明デザイナーであるお母様・石井幹子のデザイン事務所に入られましたが、お母様の会社で働くことに躊躇はありませんでしたか?
 他の新入社員と同じように玄関の掃除から始めました。3年間アシスタントとして照明の基礎を学びました。
照明デザインは、30年ほどの歴史しかない新しい分野ですから、基礎から教えてくれる学校は世界的にみても殆どなく、日本やフランスでは一部のデザイン学校で科目の一つとして取り入れている程度です。だから、必要な知識は現場で学んでいくしかないのです。電気、物理、幾何学的な緻密な計画や計算、技術的な制約がたくさんあり、それに加えて専門用語も多いので、毎晩遅くまで仕事をし、土日も宿題を持ち帰って勉強付けの毎日でした。

3、 その後、パリへ「ライト・シーブル社」への転職のきっかけは?
 ある程度経験と技術を身につけたら、「光の街(ヴィル・ド・ルミエール)」パリで幅の広い仕事がしたいと思うのは当然の経緯でした。パリは世界的にも照明デザインが進んでいる街。モニュメントのリニューアルには、必ずと言っていい程チームに照明デザイナーが加わります。
学生時代研修をしたライト・シーブル社の代表は、いつでも戻ってきていい、と言ってくれていましたが、いざ就労ビザを取ろうと思うと、ことの他大変でした。ただでさえ失業率の高いフランスで、フランス人を差し置いて外国人を雇うのですから、その人がどんなに優秀で、フランスにとって必要な人材なのかを証明し、当局を納得させなければなりません。それでも、申請をはじめて1年後に晴れてビザを取得でき、1999年、パリへ出発したのでした。

【パリの光メモ】
■パリ・イルミヌ・パリ
Paris Illumine Paris
パリ市、商工会議所などが協催する、年末年始のパリ市内50ケ所のイルミネーション
。1月中旬まで開催。

Place Victor Hugo (16eme)
石井リーサ明理さんデザイン
他2ケ所、
Avenue Montaigne (8eme)
Viaduc des Arts (12eme)

■パリのおもなライトアップみどころ
パリの照明それぞれ名所ごとに、街灯もポールも違う。「ポン・ヌフ」「ノートル・ダム」「シャンゼリゼ」「ルーブル」などの名前のついた照明器具もある。
(直筆の「パリのおもなライトアップみどころマップ」著書『光に魅せられた私の仕事〜ノートル・ダム ライトアップ プロジェクト』(講談社)より)


4、ところで、お名前が照明デザインにぴったりだという印象を受けたのですが、ご本名ですか? リーサ・明理(あかり)さんというお名前の由来は?
 どちらも本名です。ファーストネームの明理はもちろん、セカンドネームのリーサも照明デザイナーの母による命名です。母が照明デザインをフィンランドで学んだ際に、公私にわたり娘のようにかわいがってくれたのが、照明器具デザイナーのリーサ・ヨハンソン=パッペ女史。終生、氏を第二の母のように慕った母は、そのお名前を娘のミドルネームに頂いたのです。私は、どちらも気に入っています。海外で働くときにはリーサ(フランス語読みではリザ)を名乗ります。明理より覚えてもらえやすいし、氏名も性別の区別も自動的にしてもらえます。

5、 現在の照明デザインのお仕事をするにあたり、有名な照明デザイナーであるお母様の影響はないということですが、 芸術や感性を育まれた、ということはありましたか?
 照明デザインどころか、何をしろということを母に一切言われたことはありません。ただ、海外の学会に連れて行ってもらったことがあり、楽しかったことを覚えています。
現在は、同じ仕事をしている者同士、コラボレーションをすることもあり、よき相談相手となっています。電話で話しても、会話の殆どは仕事の話題なんです。
 
6、 パリ「ライト・シーブル社」では、すぐに実力が認められ、世界中の様々な大プロジェクトに参加されたわけですが、特に印象に残ったプロジェクトはどんなものでしたか?
困難なこともあったかと思いますが、そんな時、石井さんなりの克服方法は何かありますか?


セーヌ川越しに見えるノートル・ダム大聖堂の夜の顔。大聖堂自体が光を放っているように見える。パリの中心として、遠くからでもその姿が認識できる。
  チーフデザイナーになってからは、常に10から25ものプロジェクトをかかえ、世界各国に出張に出ることもしばしばで、そのどの案件にも思い入れがありましたが、 やはり何といってもパリ市民、キリスト教徒のよりどころであり、世界的な観光地であるノートル・ダム大聖堂のライトアップリ・ニューアルは、特別な大プロジェクトでした。
 ノートル・ダムに最初に照明がともったのは1954年。およそ半世紀ぶりにライトアップを一新するという大プロジェクトは、折りしも私がパリで仕事を始めた1999年に始まりました。その1年後からはチーフデザイナーとして、2002年12月に新しい照明を点灯するまで、プロジェクトの指揮をとることになったのです。様々な意味で重要なプロジェクトですから、歴史的建築物を保護できる手法が使われているか?宗教的な教義に沿っているか?観光地として魅力があり、かつ安全を確保できるか?などなど、留意点は多々あり、関わる人の多さもただものではありません。また、建築物としての正確な図面は残っておらず簡単なスケッチがあるだけでしたので、現地で光を当ててみる夜間のテストが続きました。完成前の調整期間は、ヨーロッパを寒波が襲い、夜は氷点下になる寒さの中、スタッフ同士の連帯感と「この光を世界中の人に届けたい」という情熱に助けられました。
 そして12月23日の点灯式は、マスコミ各社が押し寄せ、パリ市長、カトリック教会パリ司教が挨拶を述べる盛大なものでした。大聖堂にあかりが灯ったときの群衆のどよめき、姿が浮かび上がった時の光はいまでも心に焼きついています。

「私が主に現場を担当したところは、あのバラ窓のところと、その上の柱が立っている部分」と懐かしそうにノートル・ダムを見上げる石井さん。写真後方に見えるのは、極寒の夜間照明テストの際に、暖をとった思い出のカフェ。

その2、パリで光のとりこになった、だからパリにいる。
【back number】 vol.1 パリは私を放っておいてくれる街 平沢淑子さん
  vol.2 パリのエネルギー源は人間関係 芳野まいさん
  vol.3 エール・フランスパイロット 松下涼太さんに訊く
  番外編 ワイン評論家 “ジャン・マルク・カラン“に訊く
  vol.4 全てが絵になるパリの景色の中で 寺田朋子さん
  vol.5 マダム・ボ−シェに聞く
  vol.6 日仏交流の最前線で
  vol.7 パリで育ち、世界に羽ばたく 山田晃子さん
最新インタビューへ

【net nihon.S.A.R.L】
Copyright (c) NET NIHON.All Rights Reserved
info@mon-paris.info