リュクサンブール美術館、2007年・春夏期の企画展は、René LALIQUE ルネ・ラリック(1860~1945)のジュエリー作品を紹介するものです。美術様式がアール・ヌーヴォーからアール・デコへと変移していく中でラリックは、それまでにない奇抜なアイデアをもった作風でアクセサリー界に革命を起こし、宝飾界の真髄を究め、一世を風靡しました。
金、銀、象牙、螺鈿(らでん)、そしてラリックの象徴的マテリアルともいえるガラスや七宝などにオパール、サファイア、ペリドット、ダイヤモンドといった宝石を自由自在に組み合わせる。その小さなステージに現れるモチーフとなったものは、優美でやわらかな曲線と、リアルで繊細な描写で形作られた植物、鳥、昆虫、女性像など、身近な自然界でした。
建築やインテリア装飾、空間デザイン分野などにも広く活動の場を持ったアーティストですが、本展ではアール・ヌーヴォー期の1890年から1912年にかけて制作されたジュエリーやデザイン画、ガラス工芸品などを紹介。フランス国内は元より、世界中の個人コレクターやイスラエル、ドイツ、アメリカの美術館、日本の《箱根ラリック美術館》 http://www.lalique-museum.com/からも多数が出品され、注目を集めています。
そもそもラリックと日本の関係は、美術界の“ジャポニスム”からの影響にありました。1862年のロンドン万博、そしてとりわけその後の1867年、1878年のパリ万博で紹介された日本の伝統美術・工芸品などによって広まったジャポニスム世代に在ったラリックは、非常に簡素で洗練されたデザインと精巧をきわめた日本美術の技に感嘆しました。桜、梅、藤、木蓮、そして皇室の紋章でもある菊などの植物をふんだんにモチーフとして使用したジャポニスムは、フランス・シャンパーニュ地方の田舎で生まれ育ったラリックにとって親しみ深い芸術であったといえるでしょう。
これらの関連として、17~18世紀ころに日本で作られた菊紋様の印籠や刀の鍔(つば)、植物画集ーー横須賀海軍工厰建設の際に来日し、13年間滞在したフランス一等海軍医で植物学者のサヴァティエ(1830~1891)が持ち帰ったーーなども展示されています。ラリックはこうした東洋の表現美にインスピレーションを受けつつ、鼈甲(べっこう)に似た素材や七宝、翡翠、パールなどを駆使し、独自のスタイルとミックスさせて、簪(かんざし)や櫛形のオリエンタルムード漂う作品を多く作りました。
自然を愛し、自然への賛美をジュエリーにつめこんだラリック・ワールドに親近感を覚えるのは、他ならぬジャポニスムの精神に通ずる部分があるからかもしれません。息をのむ音やため息があちらこちらから聞こえてくる、きららかな宝飾芸術の展覧会です。
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