この映画は、かの「シャレード」のリメイクです。今やカルトになってしまった「羊たちの沈黙」のジョナサン・デミの監督で、アメリカでは昨年秋に公開、初登場14位を記録しました。リメイクなので、オードリー・ヘップバーンも、ジヴァンシーの衣装も、マンシーニのスコアもない「シャレード」です。ちょっとドキドキしながらチケット売り場に並びました。(オリジナルと)比べるのはよくない、比べるのは酷だと思いながら。さてその結果は?
まずこの映画はサスペンスの趣です。ロマンチックな部分はどうも弱いし、コメディの部分もどうも華に欠ける。かといってスリリングなテンポのストーリー展開があるかといえば、どうもそれも成功しているとは思えません。演技陣もそれなりに今旬のチャーミングな(もちろんオリジナルとは比べていません!)俳優さんを起用しているのですが、彼等の持ち味が上手く活かされているかといえば、それもまた。才能のある監督なので、このあたり、ジョナサン・デミの功罪は大きいでしょう。
結局これらネガティブな部分をさておいても、この映画の中で健闘しているもの。他でもない、パリの街です。全編パリのロケーション(即興的な演出も多かったのでは?カメラはデミと永きにわたるコンビ、タク・フジモト。)が敢行され、エッフェル塔からコンコルドの広場の観覧車まで、お馴染みのスポットが登場します。見慣れた風景だけれども、アメリカ人が見るフィルターをとおしてパリを見ると、これが意外に面白い。いわゆるみんなのイメージの中にあるファンタジーの部分のパリです。70年代だろうが、2003年の今だろうが、外国人がパリに抱くステレオタイプのイメージってあまり変わっていないのですね。フランス人がパリを撮ると、きっとこういう風にはなりません。虚構と現実のバランスが、違和感を感じない程度に、ソフトにまとめられています。加えて、地元へのリスペクトも忘れません。アズナブール(トリュフォーの「ピアニストを撃て」で出演していた、有名な歌手)から、アンナ・カリーナ(初期ゴダールの主演女優)、アニエス・ヴァルダのカメオ出演まで、ヌーヴェルヴァーグの“引用”“ウィンク”が、アクセントを添えます。
オリジナルへのリスペクトゆえか、残念、大作でも傑作でもないのが本作です。が、意外、映画館を出る時の印象は爽やかなものでした。パリに住んでいられるのも、悪くないものだな、と。勝手知り尽くしたパリの街並が新鮮に見えました。最後に個人的な感想でごめんなさい。
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