ジャン=ジャック・エネールは1829年にアルザス地方の南部で農家の末っ子として生まれました。幼いころから絵の才能を認められ、ストラスブールのアトリエで頭角を現し、奨学金を得て、パリのボザール(美術学校)に学びます。1955年にローマ賞を獲得し、ローマで研鑽を積んでからは、パリに戻り、正統派フランス絵画、画壇の中心人物として活躍、多くの作品が国家買い上げとなりました。
パリで活躍するようになってからも生まれ故郷アルザスへの想いは深く、普仏戦争後1871年に描かれた女性像は、単に、「アルザスの女性」というだけでなく、ドイツ帝国に屈することをかたくなに拒否するフランスの意思を感じさせるものであり、まさに象徴として『アルザス』と呼ばれてきました。また、1888年に描かれた、暗闇に横たわるサン・セバスティアンは、「矢に射抜かれずとも、一滴の血を流さずとも、その苦悩が伝わる」と評されました。
しかし、現代では、印象派の画家たちの人気に押され、ともすると忘れ去られてしまった画家の一人とも言えるかもしれません。現在、パリ市の「ロマン主義美術館」で、100年ぶりに彼の偉業を一同に集めた展覧会が開かれています。
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